108 ダンジョン都市アダック⑲ 修
ラーネが鞘から紅蓮の剣を抜き放つと、魔力が供給された刀身が真っ赤に光り輝いて炎を纏う。
攻撃型木偶車の黄はラーネに向きを変え、凄まじい速さで突進した。
ラーネは紅蓮の剣を振るうと刀身から炎が放たれ、激しい炎が攻撃型木偶車の黄を一瞬で包み込んだ。
炎上した攻撃型木偶車の黄は激しい炎に焼かれて動きを停止した。
「あら、硬いわね……」
不満そうな表情を浮かべるラーネは即座に思念をシルルンに送った。
「マスター、私はあの力が欲しいのよ」
ラーネは思念でシルルンに強請る。
「えっ!? 来てたんだ……分かったよ」
驚きの表情を見せるシルルンは『反逆』をラーネに発動した。
「フフッ……フフフッ……これよこれっ!! 私が欲しかったのはこの力よ!!」
ラーネは恍惚な表情を浮かべて身をくねらせる。
何度もヒールの魔法を唱えて体力を回復させた攻撃型木偶車の黄は、再びラーネを攻撃しようとしたが、ラーネはすでに攻撃型木偶車の黄の後方に立っていた。
ラーネは背後から紅蓮の剣で攻撃型木偶車の黄を一刀両断し、体が二つに分かれた攻撃型木偶車の黄は霧散した。
異変に気づいた守備型木偶車の黄はラーネの方向に向きを変えたが、ラーネは凄まじい速さで一瞬で守備型木偶車の黄との距離を詰めていた。
「!?」
守備型木偶車の黄は面食らったが、それが彼の最後の行動だった。
すでに、ラーネに斬られているからだ。
体が横にズレ落ちた守備型木偶車の黄は何もできずに消滅したのだった。
「……」
その光景を目の当たりにしたリザたちは、ラーネのあまりの強さに呆然としていた。
「あ、あれが主の仲間で一番強い者か……とんでもない強さだな……」
ロシェールはただならぬ表情を浮かべている。
ラーネはドロップしたアイテムを拾い、リザたちに向かって歩きだす。
「す、すごい!! あのとんでもない強さの特化型の黄を倒すなんて!!」
驚きの表情を浮かべるプリン王子は、重装魔戦士たちに護られながらリザたちを目指して進み始めた。
彼らは戦場から離脱したが、マーニャたちが戦いを繰り広げていたので先に進めずに状況を窺っていたのだ。
「プ、プリン王子!?」
リザたちは驚きのあまりに血相を変える。
「僕たちのところにリッチ ロードが現れてね……それで逃げてきたんだけどレドスたちが心配だよ……」
リザたちと合流したプリン王子は深刻な表情を浮かべている。
「フフッ……こんなのが落ちてたわ。このダンジョンの魔物は変ね。だけど何かを必ず落とすから面白いわね」
ラーネは掌の上に二つ並ぶ10センチメートルほどの宝石を見つめながら、楽しそうに微笑んだ。
彼女が入手した宝石は、ダイヤモンドとルビーだ。
ちなみに、ラーネがここにいる理由は、シルルンの傍に『瞬間移動』ができなかったからだ。
彼女は何度も『瞬間移動』でシルルンの元に移動しようとしたが不可能だったので、シルルンから近い場所にやむなく『瞬間移動』した。
すると、目の前にはダンジョンが聳え立っていた。
この時ラーネは再び『瞬間移動』でシルルンの元に移動しようとしたが、できなかったのでダンジョン内でも『瞬間移動』ができないと思い込み、自力でここまで下りてきたのだ。
「……シルルンがとんでもない化け物と戦ってるのよ。たぶん、助けになるのはあんただけよ」
リザは心底悔しそうにラーネに言った。
「知ってるわよ。けど、あれは私でも無理よ……たとえるなら範囲攻撃のサンダーの魔法を連発するような化け物なのよ。サンダーの魔法は私でも見てからの回避は不可能なのよ」
(軽減系の能力である程度は防げるけど、最終的にはマスターの足を引っ張ることになるわ)
ラーネは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべている。
ちなみに、音の速さは1秒でおよそ340メートルほど進むが、稲妻の速さは1秒でおよそ150キロメートルほど進むのである。
「そ、そんな……」
リザたちは苦悩の表情を露にしている。
「……すまないが特化型の黄と戦っている魔族を助けてもらえないだろうか? あの魔族は私たちを逃がすために特化型の黄を引きつけているんだ」
リャンネルを指差したロシェールは神妙な表情でラーネに頼んだ。
「フフッ……構わないわよ」
ラーネはまるで散歩にでもいくような軽い足取りで、リャンネルに向かって歩いていった。
一方、速度型木偶車の黄と戦いを繰り広げるリャンネルは満身創痍だった。
彼女はインビシブルの魔法で姿を消し、上空から槍で速度型木偶車の黄を攻撃していたのだ。
だが、速度型木偶車の黄は相打ち覚悟でダメージを受けると同時に、サンダーの魔法で反撃に転じた。
これにより、回復手段を持ち合わせていないリャンネルは疲弊したのだ。
「最早、ここまでか……」
リャンネルは最後の力を振り絞って槍を構えた。
すると、彼女の瞳に映し出されたのは、速度型木偶車の黄が女に一撃で両断される信じがたい光景だった。
女は妖艶な笑みを浮かべながらリャンネルの前に歩いてきた。
「フフッ……あなたからマスターとの繋がりを感じるわ。マスターはとうとう魔族までペットにすることができるようになったのね」
「……な、何者なんだお前は?」
「私はラーネ。あなたと同じでマスターのペットよ」
「な、なんだと!?」
(マスターはこんな化け物すらペットにできるのか……)
戦慄を覚えたリャンネルはそれと同時に恍惚な表情が浮かんでいたのだった。
「ちぃ、なんてしぶとい野郎だ……」
木偶竜は『サンダーウェーブ』を連発し、無数の稲妻がシルルンたちに襲いかかる。
だが、木偶竜の猛攻を受け続けてもなお、シルルンたちは絶えず動き回って反撃すら行っていた。
「畳み掛けが足らねぇんだ……サンダー!! サンダー!! サンダー!!」
木偶竜は『サンダーウェーブ』を連発しながらサンダーの魔法も連続で唱え始めた。
彼はこれまでヒールの魔法で体力を回復しながら戦っていたが、それでは勝てないと思い知ったのだ。
鞭のようにうごめく無数の稲妻が瞬き、空からは無数の稲妻がシルルンたちに降り注ぐ。
だが、シルルンたちは木偶竜の前で動きを止めた。
「あはは、賭けに出るのが遅かったね」
「あぁ?」
木偶竜は鋭い眼光でシルルンを睨みつけた。
「もう、僕ちゃんたちに稲妻は効かないってことだよ」
「う、嘘ついてんじゃねえぞコラァ!!」
木偶竜は『サンダーウェーブ』を放ち、無数の稲妻が瞬いてシルルンたちに直撃したが、シルルンたちは平気そうな表情を浮かべている。
「ば、馬鹿なっ!? ありえねぇだろ!?」
木偶竜は雷に打たれたように顔色を変える。
シルルンたちに稲妻が効かないのは『反逆』によるものだ。
つまり、『サンダーウェーブ』をくらい続けていたプル、プニ、ブラックは『雷無効』に目覚めたのだ。
シルルンにいたっては早い段階で『雷無効』に目覚めており、プルたちが『雷無効』に目覚めるのを待つ間に『雷無効』から『雷吸収』へと進化させ、『サンダーウェーブ』も吸収して奪っていた。
しかし、シルルンは『雷吸収』により、稲妻を体に受けると体力が回復するというおかしな体になってしまっていた。
それはつまり、シルルンが『サンダーウェーブ』を自身に放つと体力が回復するという回復手段を彼は手に入れたのだが、そんなことはシルルンは知らない。
「あはは、『瞬間移動』で逃げないのかい? 得意でしょ?」
「ぬ、ぬかしやがったなこの野郎っ!! もう出し惜しみはなしだ!! ぶっ殺してやる!!」
木偶竜は命を削って五匹の特化型の黄を召喚した。
特化型の黄たちは一斉にサンダーの魔法を唱え、稲妻がシルルンたちに降り注いだがシルルンたちには効かなかった。
シルルンたちは瞬く間に特化型の黄たちとの距離を詰め、シルルンはアダマンソードで特化型の黄たちを斬り捨てた。
特化型の黄たちはバラバラに斬り裂かれて霧散する。
だが、『瞬間移動』で木偶竜がシルルンの側面に出現し、木偶竜は前脚の爪を振り下ろし、爪が直撃したシルルンは激しく吹っ飛んだ。
「しゅ、主君っ!?」
「マスター!?」
「デシ!?」
驚愕したブラックたちは慌ててシルルンの元に疾走する。
「……まだ死んでねぇ!! 畳み掛けが足らねぇんだっ!!!」
木偶竜はインターバルを無視して再び『瞬間移動』を発動し、吹っ飛んでいる最中のシルルンの側面に出現して尻尾の一撃を叩き込んだ。
弾け飛んだシルルンに対し、木偶竜はさらに追い討ちをかけようとしたが『瞬間移動』は発動しなかった。
無茶を続けた木偶竜の体はどんどん崩れていく。
「……だからどうしたってんだ!!」
木偶竜は全ての力を振り絞ってシルルンに目掛けて凄まじい速さで突撃した。
「……完全に油断してたよ」
(まさか『瞬間移動』を攻撃に使ってくるなんて思いもしなかったからね)
ふらふらと立ち上がったシルルンは口から流れ落ちる血液を腕で拭った。
「これで決着だっ!!」
木偶竜は大口を開けて凶悪な牙を剥き出しにしてシルルンに襲い掛かり、それに対してシルルンが袋斬りの構えで突進した。
だが、ブラック不在でその速度は木偶竜より遅かった。
しかし、プルルだけがシルルンのシャツにしがみついていた。
「アクセラレイトデチュ!!」
プルルはアクセラレイトの魔法を唱え、赤い霧がシルルンの体を突き抜け、シルルンは凄まじい速さで加速した。
「がぁああああああああああああああああああぁぁぁぁ!!!」
閃光と化したシルルンと木偶竜が交差して突き抜けた。
木偶竜はピクリとも動かないが、シルルンは振り返って氷撃の剣を魔法の袋にしまう。
「……ちぃ、なんて奴だ……だが、悪くない……こんなことなら最初から正面から戦かっとけば良かったぜ……」
真横に両断された木偶竜は体がずれ落ち、次第に消滅していく。
だが、その死に顔は穏やかで、満足そうな笑みを浮かべていたのだった。
「マスター!!」
プルたちがシルルンの傍に駆けつけ、プルとプニがシルルンの両肩に飛び乗り、シルルンはブラックに乗った。
ボロボロのシルルンにプルとプニはヒールの魔法とファテーグの魔法を唱え、シルルンの体力とスタミナが全快する。
「我らなしでも奴を倒すとはさすがですな主君」
「……いや、プルルのアクセラレイトの魔法がなかったらどうなってたか分からないよ」
シルルンはプルルの頭を指で優しく撫でる。
プルルは嬉しそうだ。
すると、リッチ ロードたちがシルルンたちに向かって歩いてきた。
「な、なんだと!? 敗れたのか玉の黄よ……」
霧散する木偶竜を目の当たりにしたリッチ ロードは愕然とした。
「――っ!? リッチ ロード!?」
(レドスたちが負けた? なぜ僕ちゃんはこの結果を想定できなかったんだ……)
顔を伏せたシルルンは重苦しげな表情を浮かべている。
「あの状態の玉の黄を倒すとはやるではないか」
「……レドスたちに何をしたんだよ」
シルルンは怒りの形相でリッチ ロードに尋ねた。
リッチ ロードの傍にはレドス、グリフォン、ビートルの姿があるが、その目には光が失われていた。
「殺して配下にしただけだ。この人族は鍛えれば強くなりそうだからな」
リッチ ロードは事もなげに言ってのけた。
ちなみに、レドスのような強い冒険者の死体からダーク スケルトンライダーは作られる。
気が遠くなるほどの長い修練の間に身が朽ち果てて骨が剥き出しになり、その骨が白色から黒色に変わったときにダーク スケルトンライダーに進化するのだ。
「レドスとハイ グリフォンとハイ ビートルの状態がアンデットになってるデシ!! たぶんリッチ ロードがネクロマンシーの魔法でアンデットにしたデシ!!」
プニは『魔物解析』でレドスたちやリッチ ロードを視てシルルンに思念で報告した。
彼は『魔物解析』を使いたくて使いたくて仕方がないのだ。
「アンデットはキュアの魔法で治せないのかな?」
シルルンは思念でプニに尋ねた。
「たぶん、治せたとしても死体に戻るだけデシ」
「だよね……」
シルルンは憤怒の形相でリッチ ロードを睨んだ。
「くくく、貴様はなかなかの手練れのようだ。死んで儂の配下になるがいい。サン……」
「遅いんだよ!!」
すでにリッチ ロードの背後にいるシルルンが振り返って言い放った。
「ば、馬鹿な!? こ、この儂がたったの一太刀で……」
体が三つにズレたリッチ ロードは地面に崩れ落ちた。
リッチ ロードがサンダーの魔法を唱えるよりも早く、シルルンが『並列斬り』で袋斬りを放ったからだ。
「……お前は魔力が桁外れなだけで弱いんだよ」
「ターンアンデットデシ!! ターンアンデットデシ!!」
「ターンアンデットデシ!! ターンアンデットデシ!!」
プニは『並列魔法』『連続魔法』を発動し、ターンアンデットの魔法を唱えて、四本の真っ白に輝く光の柱にリッチ ロードは包まれた。
「うぎゃああああああああぁぁぁあああああぁぁぁぁ!!!」
四発の内の一発が『魔法耐性』を貫通し、リッチ ロードは浄化されて消滅した。
だが、主を失った五匹のアンデッドが野生化し、ダーク スケルトンライダーたちがシルルンたちに襲い掛かり、槍の一撃を繰り出した。
シルルンは剣で槍の攻撃を難なく弾き返し、プニがターンアンデットの魔法を連発してダーク スケルトンライダーたちは浄化されて消滅する。
残ったアンデットたちは突っ立ったままで動きはない。
アンデットに成り立てで、意識と体が馴染んでいないからだ。
「……手の施しようがないからターンアンデットの魔法で天に送るしかないね」
「分かったデシ」
プニはターンアンデットの魔法を唱えるが、レドスの『魔法耐性』が邪魔して何度もターンアンデットの魔法を唱えている。
「……」
(アンデット化した魔物はテイムできるのかな?)
その疑問に抗えなかったシルルンは紫の球体を作り出し、紫の結界でハイ ビートルを包み込んだ。
結果、ハイ ビートルは難なくペットになったのだった。
「えっ!? できるのかよ!?」
シルルンは面食らってぽかんとする。
「新たな主よ……我が名はビークス……よろしくお願い申す」
「……う、うん」
(上位種だけあって思念での会話もスムーズだけど大丈夫なのかな……)
シルルンは不安そうな表情を浮かべている。
「仲間になったデスか?」
「うん、アンデットでもペットにできるみたいだね」
「やったデス!!」
「ほう、貴殿を歓迎する」
「よろしくお願い申す」
シルルンは視線をレドスたち転ずると、レドスはすでに天に送られていた。
「……このダンジョンは人が死にすぎるね」
シルルンは悲痛な表情を浮かべていたが、シルルンたちは木偶竜と黄の特化型五匹のドロップ品を回収して仲間たちに向かって歩き出したのだった。
「フフッ……おかえりなさい……あれを倒すなんて、さすが私のマスターね」
シルルンたちを出迎えたラーネは恍惚な表情を浮かべている。
だが、リザたちはシルルンのあまりの強さに絶句し、言葉を発することができなかった。
「レ、レドスたちは全滅したんだよね?」
プリン王子は沈痛な面持ちでシルルンに尋ねた。
「うん。レドスはリッチ ロードにアンデットにされたから、ターンアンデットの魔法で天に送ったよ」
「えっ!? そ、そうだったんだ……あ、ありがとう……」
プリン王子は大粒の涙を流して号泣している。
「じゃあ、僕ちゃんたちは先に進むよ」
シルルンはリザたちに目配せして踵を返した。
「……えっ!?」
こんなところに放置されるとは思いもしなかったプリン王子は面食らったような顔をした。
「おい、ちょっと待て!! お前は王子をこんなところに置いていくつもりなのか!?」
憤怒の形相を浮かべる重装魔戦士が、シルルンに激しい怒声を浴びせる。
「置いて行くも何もさっきも言ったけど、僕ちゃんはこの国の人間じゃないから関係ないんだよね」
「き、貴様……」
重装魔戦士は怒りのあまりに体がわなわなと震えだす。
「それにこれは試練なんでしょ? 君たちが王子を護って連れ帰ればいいじゃん」
「なっ!? ぐっ……」
重装魔戦士は悔しそうに固く唇を噛みしめている。
「……じゃ、じゃあ、この試練の引継ぎを他国の冒険者であるシルルン、君に依頼するよ」
プリン王子は意を決したような表情でシルルンに言った。
「……ふ~ん、成功報酬には何をもらえるの?」
「そうだね、君は冒険者だから魔導具なんかはどうかな?」
「どんな魔導具をもらえるの?」
「僕の国はダンジョン王国といっても過言ではないから、ダンジョンから出た魔導具が王の元に届けられるんだよ。その中でも貴重な魔導具は王族のみが立ち入ることができる宝物庫に保管されているんだよ。その魔導具を三つということでどうかな?」
「お、王子!? どうかお考え直しください!! あの宝物庫には危険な魔導……」
「君たちは黙っててくれないかな。君たちに任せていると話がこじれるだけだからね」
プリン王子は話の途中で重装魔戦士の言葉を遮った。
「……はっ、も、申し訳ありません」
プリン王子の豹変に重装魔戦士は戸惑うような表情を浮かべている。
「……ほんとにもらえるの? 言うだけなら誰にでもできるからね」
シルルンは訝しげな眼差しをプリン王子に向ける。
「僕の名に懸けて約束するよ。違えればこの命を差し出すと」
「お、王子、そんな無茶なっ!?」
重装魔戦士は慌てふためいて頭を抱えている。
「……条件があるよ」
「どんな条件かな?」
「その護衛たちをここに置いていくことだよ」
「えっ!? そ、それはできないよシルルン」
戸惑いながらもプリン王子は自分で決断した。
「お、王子……」
重装魔戦士たちはキラキラした眼差しでプリン王子を見つめている。
「……ぷ、冗談だよ。けど、これから先は王子が自分で判断して、その護衛たちに口出しさせないでほしいんだよね」
シルルンは仕方ないといった感じで引き受けたのだった。
彼は所詮は口約束なので反故にされる可能性は十分にあると思ったが、王族に恩を売っておいても損はないと考えたのだった。
メローズン王国が魔物に滅ぼされる可能性は、〇ではないからだ。
シルルンは魔法の袋からアイテムを取り出し、プリン王子に投げ渡した。
「こ、これは……黄の転移石!?」
「まぁ、契約成立ってことでそれを渡しておくよ。あとは送り届けるだけだけど約束は守ってよね」
「うん、絶対に守るよ」
プリン王子は満面の笑みを浮かべている。
「僕ちゃんたちはこの階を攻略してから地上に戻るつもりだから、王子たちもついてきてね」
シルルンはリザたちに目配せして踵を返して歩き始めた。
「ねぇ、シルルン。僕は良い王様になれるかな?」
シルルンの横に並んで歩くプリン王子は神妙な表情でシルルンに尋ねた。
「さぁ? 良い王様の基準が分からないけど、僕ちゃんにとっての良い王様は国を滅ぼされないことなんだよね」
「だ、だったらさ、僕を助けてくれないかな? シルルンには僕の国の将軍になってほしいんだよ」
プリン王子はシルルンの顔を正面から見据えた。
「えっ? ヤダよ」
シルルンは王族相手に何の配慮もなく返答した。
「……えっ!? ……で、でも僕はシルルンのことを絶対に諦めないからね!!」
一瞬面食らってぽかんとしたプリン王子は、それでもシルルンを追いかける。その顔はなぜか嬉しそうだった。
シルルンたちは地下30階の最奥にあった開けた場所に進むと、木偶戦車の黄が待ち構えていた。
だが、木偶竜が召喚した特化型の黄のほうが遥かに強く、シルルンは木偶戦車の黄を瞬殺した。
そこから先に進むと最奥には魔法陣が展開しており、シルルンたちは魔法陣を踏むと地下31階に転移した。
地下31階は魔物の姿がなかったので、シルルンたちはラーネの『瞬間移動』で地下16階に移動した。
『瞬間移動』が可能なことを知ったラーネは呆然としたという。
「しばらく休憩しようか」
そう仲間たちに指示を出したシルルンは、安全地帯の商店を見て回るために歩き出した。
だが、仲間たちは精神的にも肉体的にも疲弊しており、その場にへたり込んだのだった。
安全地帯の商店を見て回ったシルルンは何一つ欲しいものはなかったが、彼は誰かに呼ばれているような声が聞こえて操られたように歩き出した。
すると、シルルンたちの目の前には、ホーリーウィスプたちの姿があった。
彼は引き寄せられるようにホーリーウィスプの群れの中に入っていき、台座に刺さっている武器を引き抜いた。
「抜けたデス!!」
「デシデシ!!」
プルたちの言葉で我に返ったシルルンは、手に握られている武器を見つめて目をパチクリさせる。
「や、槍?」
シルルンは困惑した表情を浮かべている。
すると、シルルンの脳裏に「待っていたぞ我が主よ!! また共に戦おうぞ!!」という声が響いたが、シルルンは気のせいだと思って気にしなかった。
しかし、目の前にあった台座が凄まじい地響きと轟音を立てながら地面に沈んでいき、シルルンは慌てて槍を魔法の袋に入れてその場から逃げ去った。
シルルンは【反逆の槍】を手に入れたのだった。
一方、リザたちは何やら話し込んでおり、シルルンたちはリザたちと合流した。
「あっ!? ボス、おかえりなさい」
「さっきはすごい地響きでビックリしましたよ。でも、あの地響きは台座に刺さっていた武器が抜かれたから起きたことらしいんですよ」
アニータは顔が興奮で赤らんで鼻息が荒い。
「剣の方はいつか私が抜こうと思ってたから、剣じゃないほうの武器が抜かれたみたいで良かったわ」
リザは安堵の溜息を漏らす。
「でも、剣じゃないほうの武器はたぶん斧か槍だと思いますけど、どっちなのか気になりますね」
「フフッ……槍だったわよ」
「えっ!? ラーネさん目撃したんですか!?」
「いったい、誰が抜いたんでしょうか? あの台座に刺さっている武器は何百年も抜かれてないんですよ!!」
期待に満ちた皆の視線がラーネに集中する。
「マスターよ」
「やっぱり、あんたかい!!」
皆が一斉にシルルンに向かって言い放った。
彼女らは地響きが発生したときにシルルンがいないことに気づいており、何百年も抜かれていない武器を抜くことができるのは、シルルンしかいないと内心思っていたのだ。
しかし、この件に関してシルルンは「憶えていない」「気づいたら手に持っていた」の一点張りで通した。
ちなみに、【反逆の槍】をアニータが『アイテム解析』で視てみると、武器の名前が反逆の槍であることしか分からなかった。
シルルンたちはアニータと女怪盗たちと別れた後、プリン王子と共にアダック城に向かった。
シルルンはプリン王子を護り抜いて試練を成功させた他国の強者として宴で紹介されて、アダック王国でも有名人になってしまった。
アダック国内で最強の冒険者であるレドスたちや踊り歌人たちを失ったことにより、重鎮たちはシルルンに拠点をアダックに移し、アダックのために働いてくれないかと迫った。
だが、シルルンは宝物庫で約束通りに三つの魔導具を選んだ後、急いでラーネの『瞬間移動』で拠点に逃走したのだった。
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木偶車 黄 レベル33 全長約5メートル 守備タイプ
HP 6000
MP 1200
攻撃力 1800
守備力 3550
素早さ 1140
魔法 ヒール ウォーター ブリザー サンダー
能力 統率 物理軽減
木偶車 黄 レベル36 全長約5メートル 攻撃タイプ
HP 3500
MP 2100
攻撃力 3300
守備力 1000
素早さ 1800
魔法 ヒール ウォーター ブリザー サンダー
能力 統率 物理軽減
木偶車 黄 レベル31 全長約5メートル 速さタイプ
HP 2700
MP 1550
攻撃力 2100
守備力 900
素早さ 3230
魔法 ヒール ウォーター ブリザー サンダー
能力 統率 物理軽減
木偶竜 レベル1 全長約40メートル
HP 35500
MP 11000
攻撃力 7000
守備力 4500
素早さ 8000
魔法 スリープ ウインド サモン
能力 号令 MP回復 瞬間移動 雷耐性 物理耐性 魔法耐性 能力耐性 サンダーウェーブ
リッチ ロード レベル67 全長約2メートル
HP 9900
MP 27600
攻撃力 2500+闇の杖 闇のナックル
守備力 2000+闇の衣
素早さ 2000+闇の靴
魔法 ファイヤ ファイヤボール ポイズン エクスプロージョン ウインド ダークネス パラライズ アンチマジック インビジブル カース スロー ディスペル アクセラレイト ネクロマンシー サイクロン
能力 MP回復 HP回復 スタミナ回復 強力 駿足 集中 物理耐性 魔法耐性 発勁 連続魔法 召喚 腐食 隠蔽 火柱
女大魔物使いがダーク スケルトンライダーより、ハイ ビートルのほうが強いと思っていたのは、『魔物解析』で視た数値がハイ ビートルのほうが高かったからだが、それはリッチ ロードが『隠蔽』の能力で数値をいじっていたからである。
ダーク スケルトンライダー レベル35 全長約2メートル
HP 14000
MP 8000
攻撃力 4400+ダークランス
守備力 4900+ダークアーマー
素早さ 4200+ダークブーツ 力の指輪+10 防御の指輪+10
魔法 エクスプロージョン マジックドレイン カース ディスペル パラライズ
能力 堅守 魔法耐性 能力耐性 威圧 物理軽減
さらに生前の魔法と能力が加えられる。




