107 ダンジョン都市アダック⑱ 修
シルルンたちは一本道の端に出現した。
「ボス!! なんでハイ スパイダーとマンティス……とスケルトンがいるの?」
「このダンジョンを出るまではハイ スパイダーとマンティスは仲間だよ。スケルトンはプニニが召喚したんだよ」
「そ、そうなんだ……」
リジルたちはハイ スパイダーたちよりもスケルトンのほうが気になるようで、スケルトンを興味津々に見つめているが、スケルトンはぼーっと突っ立っているだけだ。
「まぁ、とりあえず進んでみようか」
「ついてくるデチ!!」
シルルンたちは一本道を進み始めた。
通路は一本道だが曲がり角は左ばかりで渦巻きのような作りになっている。
「ていうか、プニニはスケルトンしか召喚できないの?」
「スケルトンしか選べないデチ……」
プニニは瞳をうるうるさせている。
「えっ!? ……そうなんだ」
シルルンは表情を曇らせた。
サモンの魔法を使用できる者はプニニしかおらず、誰もアドバイスできないので彼は地上に戻ったらサモンの魔法についての情報を調べてみようと思ったのだった。
「ボス!! この先は開けた場所になってて中央に魔法陣があるわ。そこで冒険者たちが魔物たちと戦ってるわ」
「魔法陣ってことはまた木偶車がいそうだね」
「正解よボス。冒険者たちは青の木偶車と戦ってたわ」
「……やっぱりそうなんだ。けど地下二十階で青だったから地下三十階では黄が出そうだね」
「えっ!?」
リジルたちは驚きのあまりに血相を変える。
「まぁ、黄がでたらマーニャか僕ちゃんが相手するから間違っても戦ったらダメだよ。この階を攻略したら地上に戻るのに誰にも死んでほしくないからね」
アンディたちの死が脳裏をかすめたリジルたちは真剣な表情で頷いた。
シルルンたちは開けた場所に出て、戦いを繰り広げている冒険者たちのところに向かって歩いていく。
「よぉ、シルルン。意外に早かったな」
「あはは、やっぱり戦ってたのはレドスたちだったんだ」
「ここでの護衛が俺たちの仕事だからな」
「護衛?」
「そうだ。あそこにおられるのがこの国の王位継承権第一位のプリン王子だ」
シルルンは視線をプリン王子に転じる。
「……ふ~ん、プリン王子は僕ちゃんとあんまり年が変わらなそうだね。で、レドスたちは王族つきの冒険者だったんだ」
「いや、そうじゃないが俺たちはプリン王子派だということだ。この国の王子は黄の特化型が落とす黄の転移石を持ち帰るという試練があるんだ」
「無茶苦茶な試練だね」
シルルンは苦笑する以外になかった。
「まぁな、だから俺たちも護衛に加わってるんだ」
「けど地下二十階で会ったときには王子はいなかったんじゃないの?」
「……まさにそこがこの試練の肝なんだ」
「えっ!? どういうこと?」
「黄の転移石は地下一階の魔法陣からここの魔法陣まで一気に転移できるが、定員が十人までなんだ」
「じゃあ、王子は先にここにいたってことだよね」
「そうだ。だから俺たちは急いでいたんだ。先にここに転移している王子たちとできるだけ早く合流するためにな」
ちなみに、この試練は黄の転移石を持ち帰るというものだが、王子の配下を先に地下三十階に待機させておくというようなやり方はルール違反で失格になり、王位継承権も剥奪されるのだ。
そのため、王子は自身を護る九人を連れて転移し、どのようにして黄の転移石を入手するかを試されるのだ。
そして、プリン王子が考えた作戦は、最強戦力であるレドスたちと合流するまで徹底的に逃げるというものだった。
「ふ~ん、そうだったんだ」
シルルンは視線を木偶車の青と戦っている王子たちに向ける。
プリン王子は後方に下がって真っ赤な全身鎧で身を包んだ護衛二人に護られており、木偶車の青と戦っているのが踊るように戦う女三人だった。
ちなみに、プリン王子を護る護衛の職業は重装魔戦士だ。
女三人は木偶車の青を包囲しながら木偶車の青の攻撃を踊るように避けながら鋭い拳の一撃を叩き込んでいる。
「違うと言っているだろ!! もっとちゃんと音を聴け!!」
後方で女たちの戦いを見ている女が厳しい口調で叱咤し、女たちの動きがさらに鋭いものへと変わり、その攻撃が激しさを増す。
「違う違う違うっ!! もっと心を研ぎ澄ませ!! ちゃんと音に乗れたらそんな動きにならないはずだ!!!」
「はい!!」
女たちは戦いながら真剣な表情で返事をし、木偶車の青を倒しきったのだった。
「あの女の人は何を言ってるの?」
シルルンは怪訝な眼差しをレドスに向ける。
「あの三人は踊り戦士という職業で戦う相手から音が聴こえるらしい」
「えっ!? そんな職業があるんだ」
「俺も詳しいことは分からんが踊り戦士は歌撃の武器を装備すると特殊な魔物に対して攻撃力が二倍になるそうだ。さらに音に合わせて踊りながら攻撃すれば最大で攻撃力が二倍になるらしい。つまり、踊り戦士は歌撃の武器を装備して、攻撃が成功すれば最大四倍の攻撃力になるという特殊な魔物に特化した職業らしい」
「よ、四倍ってすごいよね……」
「まぁな、だから踊り戦士は王子の直属なんだよ」
「へぇ、そうなんだ」
「君がシルルンかい!! レドスから聞いたよ!! 僕と年があまり変わらないのにメローズンでは英雄と言われているんだってね!!」
いつの間にかプリン王子がシルルンの前に立っており、プリン王子はシルルンの手を強く握って熱い眼差しでシルルンを見つめている。
「僕ちゃんは知らないけど、そういうふうに言われることもあるね……」
シルルンはまたこの話かと顔を顰めた。
「ね、ねぇ、ボスって英雄って言われてるの?」
リジルがリザに尋ねると、話を聞いていたシルルンの仲間たちの視線がリザに集中する。
「……軍が大量に兵を送り込んだ大穴攻略戦っていうのがあって、私たちは勇者と共に最後まで追従して大穴のボスであるアース ドラゴンを倒したのよ。それでシルルンは彗星の如く現れた英雄、その異名は【ダブルスライム】と言われるようになったのよ」
「つ、強い強いと思ってたけど、ボ、ボスは英雄だったんだ……けど、それじゃあ、私は英雄が率いる隊の盗賊ってことよね……」
リジルは満面の笑みを浮かべており、シルルンにどこまでもついていこうと心に誓った。
ロシェールは英雄という言葉が脳内で何度も木霊して身じろぎもしない。
「でも、リザも一緒にいたんならリザも英雄じゃないの?」
「私はシルルンと一緒に最後まで追従しただけで、最後まで追従しただけなら私の他にもいっぱいいたのよ」
「じゃあ、なんでボスは英雄なのよ?」
「それは、たぶんアース ドラゴンを倒したからよ。アース ドラゴンが放った『威圧』と『重圧』で誰もがまともに動けず後退する中、シルルンはすごい速さで突っ込んでアース ドラゴンの腹をブチ抜いた上にシルルンが止めを刺したのよ」
「さ、さすがボス!! ドラゴンを倒したんだ!!」
「ふっ……ふふふふふっ……私の主は英雄……そして私はその英雄の剣……」
我に返ったロシェールは両手で頬を押さえて恍惚な表情を浮かべながら体をくねくねさせている。
「ぼ、僕は弱くてね……弟は強くて優秀だから次の王は弟がなったほうがいいんじゃないかと思うんだよ……」
プリン王子は苦渋の表情を浮かべている。
「まぁ、そう思うならそうしたらいいじゃん」
「えっ!?」
そのような答えが返ってくるとは微塵も思っていなかったプリン王子は、面食らってぽかんとする。
「き、貴様っ!! 王子に対して無礼だぞっ!!」
プリン王子を護っている重装魔戦士の一人がシルルンの胸ぐらを掴んで激昂した。
「まぁ、僕ちゃんはこの国の人間じゃないからね」
シルルンは胸ぐらを掴まれた手を掴んで強引に外し、重装魔戦士を押し返した。
「なっ!? そ、そんな馬鹿な……」
力には自信があった重装魔戦士は信じられないといった表情を浮かべている。
「王は優秀じゃないと僕ちゃんの国みたいに滅ぼされるんだよね」
「えっ!? 君はメローズンの人間じゃないのかい?」
「僕ちゃんはポラリノールの出身だからね。なんとかメローズンに逃げ込んだけど逃げ遅れた人たちは魔物に皆殺しにされたんだよ」
「……そ、そうだったんだね」
「だが、弟のババロア王子は確かに優秀だと思うが性根が腐っている。俺はそんな奴が王になったら大変なことになると思ってプリン王子についているんだ」
「ぷっ、性根が腐ってるって……けど、それはそれで問題だね」
「魔法陣から魔物が出現!! 木偶車の黄です!!」
踊り戦士の一人が険しい表情を浮かべて叫んだ。
踊り戦士たちは振り返って真剣な表情で後方にいる女の指示を待つ。
「ここは私が出る。お前たちは下がって私の動きをよく見ておけ」
「はい!!」
踊り子のような服に身を包んだ女が魔法陣に向かって歩き出すと同時に、後方からゆるやかな琴の音が辺りに響いた。
「ん? 何この音?」
「この音は吟遊詩人の琴の音だ。音色により効果が違うらしい」
「ふ~ん、あの女の人が一人で黄の木偶車の黄と戦うんだ。あの人も踊り戦士なの?」
「いや、違う。彼女はアダックでただ一人、おそらく世界で一人しかいない【踊り歌人】だ」
踊り歌人はゆっくりと歩きながら踊り、歌いだした。
その歌声は琴の音と相まって人の心を大きく揺さぶるほどの美声で、聴く者の言葉を失わせた。
木偶車の黄は凄まじい速さで踊り歌人に向かって突進した。
それと同時に踊り歌人の歌声と踊り、そして吟遊詩人たちの琴の音が鋭利なものへと変化し、その音を聴く者たちは心臓をわしづかみにされたような衝撃を受けた。
踊り歌人は歌いながら流れるように踊っており、その動きは次第に鋭利さを増していき、木偶車の黄の左前方に歩を進めた。
「こ、これが木偶車の黄の音……」
「……なんて捉え難い音なんだ……だが、捉えてみせる!!」
「わ、解かる!! 私は捉えたぞ!!」
女たちは恐ろしく真剣な表情を浮かべており、その内一人が勝ち誇ったような顔で叫んだ。
「ねぇ、あの人たちは何を言ってるの?」
シルルンが女たちを指差しながらジト目でレドスに尋ねた。
「茶化すなシルルン!! さっきもいったが踊り戦士は音が聴こえると言っただろ!!」
木偶車の黄は左に進んだ踊り歌人にサンダーの魔法を放ち、稲妻が踊り歌人に直撃して地面に大穴があいた。
「そ、そんな……」
「う、嘘でしょ!?」
女たちは目の前で起こったことが信じられずに目の中に絶望の色がうつろう。
「いや、一人は死んだけど上空に二人いるよ」
「えっ!?」
シルルンの言葉に皆の視線が上空に集中し、シルルンが言ったように踊り歌人は上空に二人いた。
「上空に二人いるのも分からんが、一人は死んだとはどういうことなんだ!?」
レドスは不可解そうな表情を浮かべている。
「サンダーの魔法はほとんど回避不能だからね。だから一人は死んだんだけど、それより前に分裂してた二人が上空に飛んだように僕ちゃんには見えたよ」
「なっ!?」
シルルンの動体視力の高さに舌を巻いたレドスは驚きを禁じ得なかった。
上空に飛んだ二人の踊り歌人は歌いながら舞うように飛来し、木偶車の黄の両側面に流れるような動きで右の拳を叩き込んだ。
木偶車の黄はあえなく消滅し、二人の踊り歌人は引き合うように身を寄せると一人に戻って身を翻して歩き始めた。
女たちは羨望の眼差しで踊り歌人を見つめている。
「……おいおい、黄の木偶車を一撃かよ」
レドスは踊り歌人のあまりの強さに絶句した。
ちなみに、踊り歌人が三人いたのは『踊り分身』を所持しているからだ。
この能力のすごいところは三人に分身しても三人とも本人なことで、三人の内の二人が殺されても何の問題もないのだ。
だが、制限時間が短い上に、体力とスタミナと気力が著しく消耗することが欠点でもある。
そして、踊り戦士は『踊撃』と極めて稀に『歌撃』を所持しており、『踊撃』は対象が発する音に合わせて踊りながら攻撃が成功すると最大で攻撃力が二倍になる。
『歌撃』は対象が発する音に合わせて歌いながら攻撃が成功すると最大で攻撃力が二倍になるのだ。
踊り歌人が最後に放った攻撃は固有能力である『踊歌撃』で、攻撃するタイミングが『踊撃』と『歌撃』の交点に存在するといわれ、その破壊力は十倍を軽く超え、踊り戦士も踊り歌人も最上級職だ。
「で、ここにいたら先に進めるアイテムを出すボスか何かが出てくるの?」
「いや、ここではでない。地下に下りたいなら先に進むんだな」
「え~~~~っ!? マジで!? だったらここにいても意味がないじゃん!!」
「くくく、まぁ、そうだな。何階まで下りるつもりなんだ?」
「この階を攻略したら戻るつもりなんだよ。僕ちゃんたちはここにくるつもりで来たわけじゃないからね」
「……全く呆れた奴だな。来るつもりがなかったのにここまで来たのか……」
「仕方ないじゃん、転移したらこのダンジョンにいたんだよ。じゃあ、僕ちゃんたちは先に進むよ」
「……そうか、次に会う機会があったら一緒に飲みたいものだな」
「あはは、そうだね」
レドスとシルルンはがっしりと握手を交わし、シルルンは仲間たちに合図して歩き始めた。
「行かせるかボケがぁ!!」
辺りに激しい怒声が響き渡り、皆の視線が声がした方向に集中する。
そこにいたのは玉の黄だった。
しかも、大量の特殊な魔物を引き連れてだ。
その数、特化型の黄が5匹に木偶の赤が10匹、棘の赤が10匹だ。
「つ、強いデシ!! 特化型の黄の攻撃力が一番弱い奴でも2000を超えてるデシ!!」
動揺したプニが人族語で叫んだ。
「なっ!?」
皆に戦慄が駆け抜ける。
「狂った人族よ!! お前だけは絶対に許さんぞ!!」
玉の黄は五匹の特化型の黄をシルルンの仲間たちやレドスたちに差し向けた。
「――っ!? マーニャ!! 皆を護りながら後退して!!」
「まーっ!!」
シルルンは体に纏わりついてるドーラたちに、マーニャと一緒に後退するように思念で指示を出した。
ドーラたちは名残惜しそうに何度も振り返りながらマーニャの元に向かったが、プルルとプニニはプルとプニの口の中に身を隠し、口の隙間から様子を窺っている。
「狂った人族よ!! 俺もただでお前に勝てるとは思っていない……お前に勝つには俺の全てをかけて臨むしかないからな……この命をくれてやる!!」
玉の黄は言うと同時に,、木偶の赤10匹と棘の赤10匹を自身の体に取り込み始めた。
「うがぁあああああああああああぁぁぁっ!!!」
玉の黄は瞬く間に巨大化し、五メートルを超える巨人に姿を変えた。
だが、すでにゆっくりだが体の端から崩れ落ちている。
「ひぃいいいいいぃ!? なんだこの巨人は!?」
シルルンは驚きのあまりに血相を変える。
「つ、強いデシ!! 攻撃力が5000を超えてるデシ!! で、でも、ステータスがどんどん下がってきてるデシ!!」
「ちきしょう!! もう崩れてきてやがる……」
シルルンは『魔物解析』で玉の黄を視ると、玉の黄のステータスは急激に下がり続けており、シルルンはこのまま崩れればいいと思いながら固唾を呑んだ。
「……だがそれがどうしたってんだ!! 俺は何がなんでも狂った人族をぶち殺すんだよ!!」
「クククッ、お前にしてはいい判断だ。その勝負、俺も乗ったぞ『魔物融合』!!」
突如、怪しい男が空間から姿を現し、怪しい男が玉の黄に『魔物融合』を放ち、玉の黄と怪しい男は激しい輝きに包まれた。
「うがぁああああああああああああああああああぁぁぁっ!!!」
玉の黄の絶叫が周辺にに響き渡る。
輝きが消え去ると、40メートルを超える竜のような姿をした魔物が佇んでいた。
「ひぃいいいいぃ!? で、木偶竜!? 強さはエンシェント級の化け物じゃん!?」
シルルンは即座に『反逆』を発動したのだった。
五匹いた特化型の黄の内、二匹はレドスたちのほうに向かっており、プリン王子を護りながらレドスたちが戦い繰り広げている。
そして残りの三匹が、シルルンの仲間たちに襲い掛かっており、その内の一匹とリャンネルが戦っていた。
だが、玉の黄が命を削って召喚した個体である速度型木偶車の黄の素早さは3000を超えており、リャンネルをもってしても防戦一方だった。
リャンネルは後退するマーニャたちのほうに行かせないように足止めするのがやっとだった。
一方、後退するマーニャたちを二匹の特化型の黄が追いかけていた。
片方が守備型木偶車の黄で、もう片方が攻撃型木偶車の黄だ。
マーニャは後退しながら『炎刃』を放ち、炎の刃が守備型木偶車の黄に直撃したが、守備型木偶車の黄の守備力は3000を軽く超えているので平然としていた。
「まっ!?」
面食らった表情を浮かべるマーニャは乏しい経験ながらも直感で反撃がくることを予感し、『壁盾』で自身の前に壁のような防壁を作りだした。
だが、彼の全長は30センチメートルしかなく、彼の後方にいる仲間たちを護るには防壁があまりに小さすぎた。
「ヌイグルミ!! 私たちのことは気にするな!! お前だけでもそれで生き残れ!!」
その言葉に、皆は後ろ向きに後退していたが、身を翻して全力で走ろうとした。
マーニャは小さいから仲間たちを護れないと思って悲しみに身を震わせていたが、はっとして目を見開いた。
彼は自分が小さいから護れないということに閃いたのだ。
「まぁあああああああああああああぁぁぁっ!!」
結果、マーニャは全長10メートルもの大きさに巨大化し、『結界』を発動して透明の膜で仲間たちを包み込んだ。
その直後に、守備型木偶車の黄が放ったサンダーの魔法が結界に直撃し、彼が『結界』を発動しなければ死人が出ていたのだろう。
「ヌ、ヌイグルミ……お、お前……」
ロシェールたちは目を剥いて驚愕し、巨大化したマーニャを見上げている。
マーニャが巨大化できたのは『収縮自在』を発動したからなのは言うまでもない。
だが、二匹の特化型の黄の攻撃は激しく、マーニャは『結界』を張り続けるだけで精一杯だった。
「いくぞ狂った人族よ!! ぶち殺してやるっ!!」
木偶竜はシルルンに目掛けて尾を凄まじい速さで振り回して攻撃するが、ブラックは難なく尾を回避しながら接近する。
「ぷるるるるるるるるるるるっ!! サンダーデス! サンダーデス!!」
「サンダーデス! サンダーデス!!」
『魔力増幅』を発動したプルは頬っぺたを膨らませて唸りながら、『並列魔法』『連続魔法』を発動させて全力でサンダーの魔法を唱えた。
四発の凄まじい稲妻が木偶竜に直撃した。
「マジックシールドデシ!! マジックシールドデシ!!」
「マジックシールドデシ!! マジックシールドデシ!!」
『魔物解析』で木偶竜を視たプニは『並列魔法』『連続魔法』を発動させてマジックシールドの魔法を唱え、四つの巨大な盾を展開した。
シルルンは薄い青色のミスリルの弓で狙いを定めて『十六連矢』を放ち、十六発もの風の刃が木偶竜に突き刺さる。
だが、木偶竜は『サンダーウェーブ』を口から放ち、無数の鞭のような稲妻がシルルンたちに襲い掛かり、プニがマジックシールドを展開していたのでシルルンたちはダメージを軽減できた。
「痛いデス!! 痛いデス!! ヒールデス!! ヒールデス!!」
「ヒールデス!! ヒールデス!!」
怒りの形相を浮かべるプルはヒールの魔法を唱え、全員の体力を回復させた。
『サンダーウェーブ』は稲妻が数秒間留まるので、軽減系の能力を貫通し得る厄介な能力なのだ。
「木偶竜は『雷耐性』を持ってるからサンダーの魔法は効きにくいデシ!! 他にも『物理耐性』『魔法耐性』『能力耐性』を持ってるからマスターの弓の攻撃が一番いいデシ!!」
プニは『サンダーウェーブ』に備えて、再びマジックシールドの魔法を展開している。
「ヒール!! お前は素早いがどうやら『サンダーウェーブ』は避けることができないようだな!! だったら『サンダーウェーブ』を連発するまでよ!!」
木偶竜はヒールの魔法で受けたダメージを回復しながら『サンダーウェーブ』を連続で発動し始める。
ブラックは少しでもダメージを減らすために凄まじい速さで動きまくり、プルは魔法攻撃、シルルンが弓で反撃しながらプニはマジックシールドを展開し続け、シルルンたちは持久戦を強いられる。
「ぎゃはははっ!! こっちは命を懸けてんだ!! お前だけは何がなんでもぶち殺してやる!!」
木偶竜は狂気をはらんだ表情で叫んだ。
「ぐはははっ!! いい気迫だな玉の黄よ」
唐突にどこからともなくリッチ ロードが出現し、その両脇にはダーク スケルトンライダーが控えていた。
「――っ!? リッチ ロードか……いまさら何しに来やがった!?」
「無論、助太刀よ……お前が最初からその気概で挑んでいれば儂は引かなかった」
「ちっ、好きにしろよ!!」
「くくく、心配するな!! お前の獲物には手は出さん……では、あの時の続きをしようではないか」
リッチ ロードはテレポートの魔法を唱え、二匹の特化型の黄と戦いを繰り広げるレドスたちの前に出現した。
「なっ!? この状況でリッチ ロードだと!?」
レドスたちは驚きのあまりに血相を変える。
「王子を連れて後退しろ!!」
レドスは決死の表情を浮かべて叫んだ。
その言葉に、重装魔戦士たちが頷き、プリン王子を庇いながら後退し始めた。
女大魔物使いはペットに命令し、六メートルを超える巨体のハイ ビートルが凄まじい速さでリッチ ロードに目掛けて突進した。
だが、リッチ ロードを追いかけてきたダーク スケルトンライダーに間に入られ、ハイ ビートルの角の一撃はダーク スケルトンライダーの槍に受け止められてしまう。
「そ、そんな!?」
女大魔物使いは信じられないといったような表情を浮かべている。
レドスたちは二匹の特化型の黄と互角だったので、最早、絶望的な戦力差だった。
「燃え尽きろ!!」
リッチ ロードは『火柱』を放ち、ハイ ビートルを中心に半径五メートルほどの範囲に、渦巻いた激しい炎に包まれる。
ハイ ビートルは体中を炎に焼かれて絶叫した。
「させない!!」
女結界師は『水盾』を発動し、水の盾でハイ ビートルを守り、渦巻く炎は急速に鎮火する。
「ほう、面白い。この前の再現ということか……だが、これならどうかな? サイクロン!!」
リッチ ロードはサイクロンの魔法唱え、巨大な竜巻に巻き込まれた女結界師は一瞬で天井に叩きつけられて身体中を切り刻まれて塵へと変わった。
『魔法耐性』を所持しているハイ ビートルにサイクロンの魔法は効かなかった。だが、ダーク スケルトンライダーたちに体を槍で貫かれ、ハイ ビートルは即死した。
「……そ、そんな!? う、嘘よ!? ビークスッ!!(ハイ ビートルの名前)」
起きたことが信じられない女大魔物使いは悲痛な表情を浮かべて絶叫した。
「くくく、ネクロマンシー!!」
リッチ ロードはネクロマンシーの魔法を唱え、黒い霧がハイ ビートルの死体を包み込むと、ハイ ビートルは動き出したが、その眼に光はなかった。
「ビークスッ!! やっぱり、生きてたんだ!!」
弾けるような笑顔を浮かべる女大魔物使いは、傷を回復するためにハイ ビートルに向かって走り出した。
「……殺れ」
リッチ ロードはハイ ビートルに命令した。
虚ろな眼のハイ ビートルは向きを変え、駆けつけた女大魔物使いの首を前脚の爪で無造作に刎ね飛ばした。
首が地面に転がって女大魔物使いは、体から大量の血が噴出して前のめりに倒れた。
リッチ ロードたちがレドスたちのと戦いに参戦し、レドスたちに待ち受ける未来は地獄しかなかった。
一方、マーニャは苦しい戦いを強いられていた。
『結界』を維持し続けながら『壁盾』で防御力を高め、『炎刃』を放って攻撃しているが、特化型の黄は二匹いるので、ヒールの魔法で体力を回復され、倒しきれないからだ。
しかも、能力を連発しているマーニャは体力とスタミナを大幅に減らしており、このままではジリ貧だった。
ちなみに、魔法はMPとスタミナと気力、能力は体力とスタミナと気力が減少する。
「大丈夫かヌイグルミ!! 限界がきたら私たちは斬り込むつもりだ!! だから心配するな!!」
ロシェールの言葉は何の慰めにもなっていなかった。
だが、マーニャが持ち堪えているのはロシェールが『鼓舞』を発動し、マーニャの士気を上昇させ、ヒールの魔法やファテーグの魔法でマーニャを支えているからだ。
しかし、マーニャは『壁盾』を発動するが体力とスタミナが限界値に達して出現しなかった。
「いよいよか……ヌイグルミ!! お前はよくやったぞ!!」
「『結界』が破られたら私が最初に斬り込むわ!!」
意を決したリザが声を張り上げた。その言葉に皆が一様に頷いた。
接近する特化型の黄を注視するリザたちは固唾を呑む。
「フフッ……ピンチなようね。私を置いて行くからそういう目に合うのよ」
声が聞こえた方に振り向いたリジルは歓喜の声を上げた。
「ラーネさん!!」
そこには拠点にいるはずのラーネの姿があったのだった。
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