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スライムスライム へなちょこ魔物使い  作者: 銀騎士
鉱山 採掘編

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102 ダンジョン都市アダック⑬

 

 冒険者たちは最初の木偶車の青には致命傷をあたえて追い込んだが、結局、魔法陣に逃げられていた。


 彼らはその次に出現した二匹の木偶車の青までは対応できたが、さらに現れた二匹の木偶車の青に隊列をズタズタにされて混乱状態に陥っていた。


 さらに現れた二匹の木偶車の青の内、一匹が速度型木偶車の青だったからである。


「は、速いっ!? なんだあの速さは!?」


「……目で追うのがやっとの速さだぞ」


 大剣豪たちは驚きのあまりに血相を変える。


 三匹の木偶車の青は前衛たちがなんとか食い止めているが、速度型木偶車の青には誰も対応できずに中衛、後衛が引き裂かれて絶叫が木霊する。


 さらに十匹いるスケルトンナイトの群れの内、五匹は魔法陣の前で動いていないが残り五匹が敵味方関係なく、まるで狂っているように暴走していた。


 しかし、そのおかげでスケルトンナイトたちが木偶車の青や速度型木偶車の青にも攻撃を仕掛けており、場が混乱して中衛、後衛の壊滅は免れている状況だ。


「俺が中衛に戻って特化型を引きつける。その間になんとか木偶車の青たちを倒してくれ!!」


 重装魔戦士は仲間たちの意見も聞かずに身を翻して、前衛から離脱して中衛に向かって駆けていく。


 この冒険者たちは、三隊全てが十人以上の冒険者で組まれており、最上級職が六人いたが、それでも木偶車の青を三匹同時に相手にするには最上級職の数が足らなかった。


 中衛たちの元に到着した重装魔戦士は絶句する。


 中衛には重戦士が六人、騎士が二人、剣豪と格闘家の十人で編成されているが、誰も立っていなかったからだ。


 代わりに三匹のスケルトンナイトが速度型木偶車の青と凄まじい速さで戦いを繰り広げており、重装魔戦士は視線を後衛に向けると後衛も誰一人、立っている者はいなかった。


「……どうなってやがる。スケルトンナイトがここまで強いはずがない……」


 重装魔戦士は不可解そうな表情を浮かべている。


 仮にスケルトンナイトたちが連携していれば、速度型木偶車の青を倒せるほどにスケルトンナイトたちは強かったが彼らは連携しておらず、手当たり次第に攻撃を仕掛けている。


 そのため、戦いの展開が読めない重装魔戦士は下手に手を出さずに、生き残った魔物と戦うことを決断して魔物たちの戦いを静観したのだった。


 一方、前衛を務める冒険者たちは暴れ回る二匹のスケルトンナイトの動向を観察していた。


 その結果、スケルトンナイトたちは一番近くの動く者に反応していることが判明する。


 それにより、冒険者たちはスケルトンナイトたちには近づかずに、木偶車の青だけに攻撃を集中させて、重装魔戦士が抜けた穴は暗黒剣士が『決死』を発動して奮闘している。


 結果、最終的に残ったのは五人の冒険者たちと三匹の木偶車の青で、スケルトンナイトたちは回復手段がなかったために全滅した。


 これは中衛での戦いにも当てはまり、勝ち残ったのは速度型木偶車の青で重装魔戦士と激しい戦いになっていた。


 だが、根本的な素早さが違いすぎて、重装魔戦士の攻撃は全く当たらずに一方的な展開になっているが、速度型木偶車の青の攻撃が重装魔戦士に直撃しても、ダメージを与えることができなかった。


 重装魔戦士の守備力千四百をこえているからである。


 そのため、重装魔戦士からすればスローの魔法を当てることが鍵となり、逆に速度型木偶車の青からすれば、スローの魔法を連発させて魔力の枯渇を誘い、マジックシールドの魔法を展開できなくすれば攻撃魔法で倒せるが、両者は激しい攻防を繰り広げているが長期戦へと移行したのだった。

 

 前衛で木偶車の青たちと戦う冒険者たちは有利に戦いを展開していたが、魔法陣の前で動きをみせなかったスケルトンナイトの群れがここにきて動き出す。


 しかも、五匹だったはずのスケルトンナイトが二十匹まで増えており、その二十匹が一斉に冒険者たちに目掛けて突撃した。


「い、いつのまに出現したんだ……」


「詰んだんじゃねぇのかこれ……」


 大剣豪たちは戦慄して息を呑む。


「よく考えろ!! あいつらは近づかなければ問題ないはずだ!!」


 暗黒剣士は険しい表情で叫んだ。


 しかし、先ほどのスケルトンナイトたちのような爆発的な速さはなく、同士討ちもせずに木偶車の青たちの横に並んで一斉にブリザーの魔法を唱えたのだ。


 無数の冷気にさらされた冒険者たちはそのほとんどを回避したが無傷ではなかった。


「普通のスケルトンナイトかよ!?」


「連携されたらやべぇぞこれ」


「……一時ここを任せるぞ。普通のスケルトンナイトなら俺が皆殺しにしてやるまでだ」


 暗黒剣士は言うと同時にスケルトンナイトの群れに突撃しようとしたが急停止した。


 魔法陣から新たな魔物が出現したからだ。


「ば、馬鹿なっ!? この状況で特化型の青だと!?」


「もう完全に詰んだろこれ!?」


「くそがっ!! スケルトンナイトだけでも先に倒す!!」


 暗黒剣士はスケルトンナイトの群れに向かって凄まじい速さで突撃した。


 だが、魔法陣から出現した速度型木偶車の青が爆発的な速さで加速し、暗黒剣士に目掛けて突進して体当たりを繰り出した。


 暗黒剣士は体当たりを避けようとしたが間に合わず、咄嗟に大剣を地面に突き刺して防ごうとしたが弾け飛んで大剣も宙に舞う。


「な、なんて速さだ!?」


「マ、マジかよ!? 『決死』でも無理なのかよ!?」


「続けて速さタイプはさすがにやべぇな……」


 大剣豪たちの言葉に、聖騎士は深刻な表情を浮かべている。


 速度型木偶車の青は多数ある車輪を空回りさせながら暗黒剣士に向きを変えて凄まじい速さで突進した。


「が、がはっ!? ど、どんだけ速いんだよ……」


 暗黒剣士は激痛に顔を歪めながら上体を起こすと口から大量の血反吐を吐いたが、すぐに視線を速度型木偶車の青に転じた。


 すると、速度型木偶車の青が目の前まで迫っていた。


 暗黒剣士は避けようとしたが身体は動かず、ここまでかと思って瞼を閉じた。


 だが、凄まじい衝撃音が辺りに響き渡り、暗黒剣士が目を開くと目の前には巨大な魔物の姿があった。


「グ、グリフォン!?」


 暗黒剣士は大きく目を見張った。


「……なんとかぎりぎり間に合ったようだ」


 グリフォンに騎乗した男が申し訳なさそうな表情を浮かべている。


鷲獅子騎士グリフォンナイトのレドス……さん、き、来てくれたのか!?」


 暗黒剣士は激しい痛みも忘れてそう叫んだ。


「嫌な予感がしたからな。だから俺だけ先行してしてきたんだ」


 そう答えたレドスたちは浮き上がり、一気に天井まで上昇する。


 速度型木偶車の青はレドスたちに体当たりされて吹っ飛んでいたが、体勢を立て直してレドスたちに目掛けてブリザーの魔法を唱える。


 レドスたちは『スパイラルダイブ』を発動し、横に高速回転しながら一気に急降下して、冷気を突き抜けてそのまま速度型木偶車の青に凄まじい速さで激突した。


 周辺にとんでもない衝突音が鳴り響いて地面は激しく陥没し、速度型木偶車の青は一撃で消滅した。


「マ、マジかよ!?」


 暗黒剣士の顔が驚愕に染まる。


「ヒール!! ヒール!! ヒール!!」


 レドスはヒールの魔法を連続で唱えて、地面に激突したグリフォンのダメージを回復し、上空に上昇したレドスたちは戦場を俯瞰する。


「中衛にも特化型の青がいるのか……」


 レドスたちは凄まじい速さで飛行して、重装魔戦士と速度型木偶車の青の戦いに割って入り、レドスは槍の連撃を繰り出して、その全てが直撃した速度型木偶車の青は後退してヒールの魔法を唱えようとする。


 だが、グリフォンが『旋風』を放ち、竜巻に巻き込まれて身体をズタズタに切り裂かれて消滅したのだった。


「つ、強ぇ……マジかよ……」


 重装魔戦士は信じられないといったような表情を浮かべている。


 レドスたちは即座に上空で旋回し、凄まじい速さで木偶車の青たちと戦いを繰り広げる前衛たちの元に飛行した。


「ここだ!!」


 レドスは『貫通』を発動して槍を前面に突き出して突撃体勢に入る。


 矢のごとく突進したレドスたちは木偶車の青たちを一直線に貫き、木偶車の青たちは消滅したのだった。


「す、すげぇ!!」 


「三匹まとめて一撃かよ!!」


 大剣豪たちは大きく目を見張って絶句した。


「強いとは聞いていたがここまで強いとはな……」


 聖騎士は戦慄を禁じ得なかった。


「あとはスケルトンナイトの群れだけだがお前たちはどうする。いったん引くか?」


 レドスは誰一人立っていない中衛、後衛に視線を向けて沈痛な面持ちで言った。


「いえ、中衛、後衛を見てきたら重症者は多いが死者は一人もいなかったんだ。どうやら死んだふりをしていたようです」


 重装魔戦士は呆れたような表情を浮かべている。


「ぐははははっ!! やるではないか人族よ!!」


 その言葉に、レドスたちは声が聞こえた方向に視線を集中させた。


 すると、魔法陣の前に漆黒のローブを纏ったアンデッドの姿があった。


「なっ!? 喋れるのか!?」


 重装魔戦士は面食らったような顔をした。


「不自然ではないだろう。上位種クラスになると人族語を話せる魔物はいるからな」


「そもそもスケルトンナイトは、ハイ スケルトンから進化した個体だと言われている」


 レドスの言葉に、聖騎士が補足した。


「じゃあ、あれはスケルトンメイジってことか?」


 大剣豪は訝しげな眼差しを聖騎士に向ける。


「……おそらくその可能性が高いと思う」


 聖騎士は真剣な硬い表情で頷いた。


 スケルトンナイトの群れは後退して漆黒のローブを纏ったアンデッドの前に布陣する。


「けっ、いまさらスケルトンメイジが一匹増えたぐらいでどうなるもんでもないだろ!!」


 大剣豪は『斬撃衝』を放ち、風の刃が漆黒のローブを纏ったアンデッドに向かって飛んでいくが、スケルトンナイトたちが漆黒のローブを纏ったアンデッドの前に庇うように立ちはだかり、風の刃を防いだ。


 漆黒のローブを纏ったアンデッドはテレポートの魔法を唱えて、大剣豪の前に出現する。


「なっ!?」


 大剣豪は虚を突かれたような顔をした。


 漆黒のローブを纏ったアンデッドは『腐食』を発動した拳で大剣豪の腹を殴りつけ、大剣豪は弾け飛んで派手に地面を転がった。


「――っ!?」


 冒険者はたちは雷に打たれたように顔色を変える。


「う、うがぁあああああああああぁぁぁ!? は、腹が!?」


 大剣豪は死の苦悶のような表情で腹を両手で押さえて地面をのたうち回っている。


「ぐははははっ!! 腐れ!! 腐れ!! そして死ね!!!」


 漆黒のローブを纏ったアンデットは愉快そうに豪快に笑う。


 一匹のスケルトンナイトが冒険者たちに向かって突撃すると、漆黒のローブを纏ったアンデットがダークネスの魔法を唱えて、黒い風がスケルトンナイトの体を突き抜ける。


 暴走したスケルトンナイトは一気に加速して跳躍し、聖騎士に目掛けて剣を振り下ろす。


 聖騎士は剣を盾で受け止めたが、あまりの威力に後方に吹っ飛んだ。


 もう一人の聖騎士が凄まじい速さで突進して、漆黒のローブを纏ったアンデットに剣の突きを放つ。


 だが、漆黒のローブを纏ったアンデットは、剣を紙一重で躱しながら聖騎士の顔面に拳撃をカウンターで叩き込み、聖騎士は白目を剥いて宙に舞う。


「サンダー!!」

「ウインド!!」


 漆黒のローブを纏ったアンデッドは『連続魔法』でサンダーの魔法とウインドの魔法を唱えた。


 稲妻が宙に舞う聖騎士に直撃して聖騎士は黒焦げになり、さらに風の刃が聖騎士に襲い掛かるが、突如、聖騎士の前に女冒険者が割り込んだ。


「させない!! マジックシールド!!」


 女冒険者はマジックシールドの魔法を唱えて、自身の前に透明の盾を展開して風の刃を防ぐ。


「ほう、やるではないか。だが、燃え尽きろ!!」


 漆黒のローブを纏ったアンデッドは『火柱』を発動し、女冒険者を中心に半径五メートルほどの範囲が一瞬で燃え上がり、渦巻いた炎に包まれる。


 しかし、女冒険者は『結界』を発動しており、球体の結界に包まれて炎から身を守っていた。


「くくくっ、儂の『火柱』を防ぐか……だが、その程度の『結界』ではいつまでももつまい」


 漆黒のローブを纏ったアンデッドは嘲うような笑みを浮かべる。


 彼が指摘したように、球体の結界は激しい炎に削られて次第に小さくなっていく。


「こんな炎なんかに負けない!!」


 女冒険者は『水盾』を発動して、結界の前に水の盾が出現して炎はみるみる消沈して消え去った。


「なっ、なんじゃと!?」


 漆黒のローブを纏ったアンデッドは大きく目を見張った。


 女冒険者は極めて珍しい職業の【結界師】で、【結界師】は最上級職の一つで防御に特化した職業なのだ。


「なんなんだ、あのアンデッドは?」


「見たことがない奴ね」


「知ってる奴はいるか?」


 左のルートから十人ほどの冒険者が歩いてくる。


 つまり、レドスの仲間たちが到着したのである。


「……あれはリッチ、しかも、ロードよ」


 巨大なカブトムシの魔物の背に乗る女冒険者がは表情を曇らせる。


 ちなみに、巨大なカブトムシの魔物は全長六メートルを超えており、上位種のハイ ビートルで女冒険者の職業は大魔物使いだ。


 レドス隊は全員が最上級職で組まれた隊で、アダック王国では英雄レドスを知らない者はいない。


「……ぞろぞろと出てきおるわ。だが、それならそれで対応するまでの話よ」


 リッチ ロードは不敵な笑みを浮かべて『召喚』発動して二匹のアンデットを呼び出し、漆黒の骨馬に騎乗した漆黒のスケルトンがリッチ ロードの両脇に並ぶ。


「ダーク スケルトンライダー……あれも桁違いに強いわよ」


 『魔物解析』で漆黒のスケルトンを視た女大魔物使いは思わず額に汗がにじみ出る。


「ぐははははっ!! 一人残らず殺し尽くしてくれるわ!!」


 レドス隊とリッチ ロードたちが対峙して睨み合い、周辺に静寂が訪れて緊張感が張りつめた。


 すると、どこからともなく玉の黄が出現して、レドスたちを空中から見下ろした。


「ぎゃははははっ!! 殺れ殺れっ!! その人族たちを皆殺しにしろ!!」


「なっ!? あれは玉の黄!? こんな低層で出現するのか!?」


 レドスは表情を強張らせる。


「……ちっ、興ざめじゃ、帰るぞ」


 リッチ ロードは忌々しげな表情を浮かべて踵を返し、魔法陣の中に消えた。


 それを追うように、アンデッドの群れも魔法陣の中に消えたのだった。


「なっ!?」


「えっ!?」


 あまりの出来事にレドスたちは呆然としていたが、一番驚愕したのが玉の黄だった。


「ちくしょう!! なんでだよ!? なんでだ!?」


 玉の黄は苛立たしげに声を荒げて『瞬間移動』で掻き消えたのだった。


















 リッチロードたちは魔法陣に撤退したが、ダークネスの魔法で暴走したスケルトンナイトは重装魔戦士たちに襲い掛かっていた。


 だが、レドスたちが重装魔戦士たちの元に駆けつけて、レドスがスケルトンナイトを瞬殺した。


 聖騎士は腹が腐って失神している大剣豪にキュアの魔法を何度も唱えていたが、彼の魔法力ではリッチロードの『腐食』を浄化することはできなかった。


 そのため、レドス隊の聖職者がキュアの魔法を唱えて回復を試みたが、完治するまでに五回ものキュアの魔法を必要としたのだった。


 それまでの間、レドスたちは魔法陣を注視していたが、魔法陣から魔物は一匹も出現していなかった。


「それにしても、まさかお前たちのほうが先にここに到着するとはな……なぜ俺たちの到着を待たなかったんだ?」


 レドスは腑に落ちないような表情で重装魔戦士に尋ねる。


 そもそも、安全地帯でここに辿り着いたら共闘してくれと頼んできたのは重装魔戦士たちの方だったからだ。


 重装魔戦士は戦いに至った経緯をレドスに必死に説明したのだった。


「……なるほどな。右のルートを抜けてきた魔族にも怯まない冒険者たちと共同戦線を張ったのか」


 レドスは納得したような顔をした。


「はい……戦ってるうちにレドスさんたちも来るはずですし、白い転移石はどっちが入手しても一緒に二十一階に下りる約束をしてましたので問題ないかと思ったんですよ」 


「で、その冒険者たちの方にはどのくらい数の魔物が向かったんだ?」


「俺たちのほうに向かってきた数と同数程度があっちにもいってたはずですが、自分たちのほうだけでいっぱいいっぱいで気にしている余裕がありませんでした」


 重装魔戦士は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべている。


「なら、確認に行くか」


「そ、そうですね……俺も一緒にいきます。交渉したのは俺なんで!! うまく逃げていてくれてればいいんですが……」


「それはないな」


 レドスが即答する。


「……えっ!?」


 重装魔戦士は思わずレドスの顔を見つめたが、レドスは仲間たちに「行ってくる」と短く伝えて歩き出し、重装魔戦士も慌ててレドスを追いかける。


 レドスたちは右のルートの出入り口まで歩いていくと、二十階の最難関であるはずの戦場で優雅に休憩している冒険者たちの姿があった。


「……おいおい、魔車まで出しているのかよ」


 レドスは呆れたような表情を浮かべている。


「ははは、すごい連中でしょ? でも、あそこで休憩しているってことはあの数を倒したってことか……」


「まぁ、そうだろうな。死ぬか逃げるかしていたら魔物はこっちに来ていたはずだからな」


「うっ……」


(考えてみれば、そりゃそうだ……)


 重装魔戦士は恥ずかしさのあまりに赤面し、レドスたちはシルルンの傍に移動した。


「……終わったのかい?」


「あぁ、なんとかな……だがレドスさんたちがいなかったらヤバかったよ」


 重装魔戦士は自嘲気味に肩を竦める。


「まぁ、すごい爆発音が聞こえたときは大丈夫なのかと思ったよ」


「それはたぶん、レドスさんが『スパイラルダイブ』を放った音だろうな」


「ふ~ん、そうなんだ」


 シルルンは興味なさげに返す。


「おそいデチュ!! おそいデチュ!!」


「デチデチ!!」


 プルルとプニニは不満そうな表情を浮かべている。


「すげぇなっ!? その小さいスライムは話せるのか!?」


 重装魔戦士は思わず目を見張る。


「うん、僕ちゃんも最初はビックリしたんだよね」


「だろうな……で、そっちもあれだけの魔物がいったんだ。かなりてこずっただろ?」


「あんなのしゅんさつデチュよ!!」


「しゅんさつデチ!!」


 プルルとプニニは勝ち誇ったような顔をした。


「マ、マジかよ!? このスライムが言ってることは本当なのか?」


 重装魔戦士は探るような眼差しをシルルンに向ける。


「まぁ、あのくらいの数なら問題ないよ。ていうか、言ったじゃん。僕ちゃんたちだけのほうが早いって」


「あ、あぁ……そ、そうだったな……」


 重装魔戦士は心底驚いた表情でシルルンを見つめている。


「挨拶が遅れたが俺はレドスだ。よろしくな」


 レドスは右手をシルルンの前に差し出した。


「うん。僕ちゃんはシルルン。よろしくね」


 シルルンは右手でレドスの右手を掴んで、二人はかたい握手を交わした。


「プルルデチュ」


「プニニデチ」


 プルルとプニニはシルルンの真似をして『触手』をレドスの前に差し出した。


「……お、おう」


 レドスは戸惑いながらも指で触手を軽く摘む。


「よろしくデチュ!!」 


「よろしくデチ!!!」


 プルルとプニニは嬉しそうににっこりと微笑んだ。


「で、シルルンか……聞いたことがない名だな。他国の冒険者なのか?」


「うん。僕ちゃんの拠点はメローズン王国だよ」


「メローズンなら聖騎士ラーグが有名だな」


「へぇ、ラーグは有名なんだね」


 シルルンは意外そうな顔をした。


「そうだな。あの勇者セルドが出向いた大穴攻略戦で最後まで勇者セルドに追従したと聞いている」


「まぁ、最後までついていったのはホフターやリックもついていったけどね」


「あぁ、そうだ!! ホフターだ。なんでも二匹のハイ ウルフを使役する格闘家らしいな。だが、リックの名は知らないな」


「そうなんだ。リックも聖騎士なんだけどね」


「ほう、そうなのか。だが、お前もかなり強いはずだが大穴攻略戦には参加しなかったのか?」


「あはは、僕ちゃんも最後までついていったよ」


「な、何っ!? ほ、本当かっ!? そ、それでどうだったんだ大穴は?」


 レドスは期待に満ちた表情でシルルンに尋ねる。


「うん、今考えてみると皆クレイジーだったと思うよ。魔物が二千匹とかいるのに平気で突っ込んでいってたからね」


「に、二千だと!? それは確かに狂ってるな……だが、勇者セルドがでばるほどの大穴だけに頷けるものがある」


 レドスは難しそうな表情を浮かべている。


「まぁ、ボスがいる部屋に繋がる通路なんかは上位種がガンガン襲ってきたけど、セルドが一撃で倒してたから何の問題もなかったけどね」


「く、くそう……俺も勇者と一緒に戦いたかったぜ」


 レドスは心底悔しそうな顔をした。


「あはは、でも、このダンジョンもヤバそうじゃない。勇者は来たことないの?」


「昔はあるらしいが俺らの世代ではないな」


「へぇ、そうなんだ。あのリッチ ロードがガンガン出てくるならヤバイと思うんだけどね」


「……いなかったのになぜリッチ ロードが出現したことを知っている?」


 レドスは訝しげな眼差しをシルルンに向ける。


「僕ちゃんは魔物使いだからね。すごい爆発音が聞こえてからずっと魔物の気配を探ってたんだよ」


「ほう、魔物使いはそんなことができるのか。うちの大魔物使いはそんなことはできないがな」


「あはは、僕ちゃんはできるんだよね」


 シルルンはフフ~ンと胸を張る。


 彼は『魔物解析』『魔物探知』『危険探知』『超集中』を無意識に同時使用しているので、その索敵範囲は計り知れないのだ。


「ふっ、勇者に最後まで追従した魔物使いはやはり他とは違い別格ということか」 


 レドスは感心したような表情でシルルンを品定めするように上から下まで見たが、装備品が貧弱過ぎてその外見からは何も見出せなかった。


「で、提案なんだが今は魔法陣から魔物は出てきていないが、ここからは俺たちも戦いに加わるつもりだ。共同戦線を張ってるみたいだが離れて戦わないで一緒に戦わないか? 俺はお前たちの強さに興味があるんだ」


 レドスは熱い眼差しをシルルンに向ける。


「あはは、その必要はないよ。僕ちゃんたちがここで休憩してたのはすでに白い転移石を入手してたからなんだよね」


「なっ!? マジでか!?」


 レドスは雷に打たれたように顔色を変える。 


 ちなみに、白い転移石のドロップ率は一パーセントほどだと言われている。


 シルルンは白い転移石をレドスに投げ渡し、シルルンたちは魔法陣に集まって魔法陣の中心にある穴に白い転移石をはめ込むと二十一階へと転移したのだった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点]  だが、実際はスケルトンナイトはスケルトンナイトも攻撃しており スケルトンにも (にが抜けている)のでは? (素人意見ですが私は 別の とかもあると読みやすい気がします)  『だが…
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