100 ダンジョン都市アダック⑪ 修
「このまま進めば下に続く階段があるんだよね?」
シルルンはアニータに訪ねた。
「いえ、違います」
「えっ!? 違うのかよ!?」
シルルンは面食らってぽかんとする。
「このまま進めば魔法陣があって木偶車がいるんですよ」
「また木偶車かよ……しつこいんだよね」
シルルンはうんざりした表情を浮かべている。
「先に進むには木偶車の青を倒さないといけないんですが、木偶車の緑も一緒に出てくるので厄介なんですよ」
「ふ~ん、青ねぇ……強いの?」
「……強いですね。通常の木偶車の青で特化型の緑ぐらいの強さがありますので、特化型の青が出てきたら即撤退ですよ」
「そうなんだ。でもなんで青を倒さなくちゃいけないの?」
シルルンは訝しげな眼差しをアニータに向けた。
「それは木偶車の青が下の階に転移する白い転移石を落とすからです。ですが、ドロップ率が悪いみたいでなかなか下の階に転移できないんですよ。ちなみに私も二十一階に行ったことはないんですよ」
「ふ~ん、ドロップ率が悪いんだ……」
(てことは、数を倒さないといけないからマーニャとブラックに瞬殺してもらうのが確実だね)
シルルンは考え込むような表情を浮かべている。
彼がプルとプニを出さないのはレベルがカンストしているからだ。
すると、前衛のマルが引き返してきて思念で「オークが二十匹ぐらいいるの」とシルルンに伝えた。
「また黒オークかよ……」
シルルンは不機嫌そうに『魔物解析』で黒オークの群れを視た。
オーク レベル30
HP 700
MP 40
攻撃力 300+鋼の斧
守備力 250+鋼の鎧
素早さ 70+鋼の靴
魔法 無し
能力 徒党 統率
黒オーガ レベル35
HP 2300
MP 310
攻撃力 800+鋼の斧 鋼の剣
守備力 500+鋼の鎧
素早さ 450+鋼のブーツ
魔法 スリープ ダークネス ブリザー ウインド
能力 統率 威圧 剛力
「う~ん……後ろの三匹は黒オーガだね。『剛力』と合わせると攻撃力が千六百になるから一発もらえば即死だね」
シルルンは表情を強張らせた。
「せ、千六百!?」
皆の顔が驚愕に染まる。
「戦うの!!」
マルは自信ありげな表情で思念でシルルンに言った。
「……黒オーガは攻撃魔法を使うからマルはダメ」
「残念なの……」
マルはしょんぼりしている。
「く、黒オーガは無理ですけど黒オークなら勝てると思うので、是非私たちに戦わせてください!!」
女怪盗たちは切実な表情でシルルンに訴える。
「う~ん……黒オークの守備力は五百ぐらいになるんだけど、どうやって倒すつもりなの?」
(……マーニャとブラックで瞬殺するのが一番確実なんだけどね)
シルルンは面倒くさそうな顔をする。
「重戦士三人で黒オークを引きつけて、魔法師二人の攻撃魔法で一匹ずつ倒そうと考えています」
「悪くない作戦だけど、一斉に突っ込まれたら対処できないんじゃないの?」
シルルンは表情を曇らせる。
「主よ!! 私も前衛に加わりたいと思います!!」
「シルルン!! 私も前衛に出るわ!!」
女怪盗の作戦を聞いていたロシェールとリザが同時にシルルンに言った。
「……わ、分かったよ。黒オーガは攻撃魔法も使うから気をつけるんだよ」
リザとロシェールは満足げな笑みを浮かべて黒オークの群れに目掛けて突撃し、その後を女重戦士三人と女剣豪が追いかける。
黒オークの群れにリザとロシェールは正面から斬り込んで一撃で黒オークの首を刎ね飛ばし、二匹の黒オークが即死した。
その光景を目の当たりにした黒オークたちは愕然とした。
彼らは『徒党』に自信をもっていたからだ。
そこに女重戦士たちが斬り込んで乱戦に突入する。
女重戦士たちは黒オークに攻撃を仕掛けたが、互いにダメージをあたえることができなかった。
だが、高い攻撃を誇る剣豪が放つ『斬撃』は黒オークの守備力を僅かに上回っており、着実にダメージを積み重ねて後方から女魔法師たちが攻撃魔法を唱えて攻撃することで、なんとか一匹の黒オーク匹を仕留めることができた。
リザたちが暴れ回っていることで黒オークたちの敵意はリザたちに集中しており、女重戦士たちは作戦通りに黒オークを一匹ずつおびき寄せて確実に仕留めていく。
しかし、突如女重戦士二人が炎に包まれて地面をのたうち回る。
「おかしいですね……いったいどこから魔法が飛んできたんでしょうか?」
黒オーガたちの動向を注視していた女怪盗は不可解そうな表情を浮かべている。
女魔法師たちも黒オーガたちには注意を払っていたので訝しげな表情を浮かべていた。
女司祭たちは慌てて女重戦士たちの傍に駆け寄ってヒールの魔法を唱えて、火傷が回復した女重戦士たちが立ち上がる。
すると、黒オークの群れの中に杖を持った黒オークたちの姿があり、杖を持った黒オークたちはファイヤの魔法を唱えて、炎が女重戦士と女剣豪に襲い掛かる。
女剣豪は炎を避けたが女重戦士には命中し、女重戦士は炎に包まれて悲鳴を上げる。
「……厄介だね。オーガキャンプを攻撃したときにオークシーフがいたのを忘れてたよ。シーフがいるならソーサラーがいてもおかしくないからね」
「ど、どうするんですかボス!? このままじゃ重戦士たちがもたないかも……」
リジルは不安そうな表情を浮かべている。
黒オークと戦いを繰り広げている女剣豪は優勢だが、黒オークソーサラーたちはファイヤの魔法を唱えて、炎が女剣豪と女重戦士を回復している女司祭に襲い掛かる。
女剣豪は戦いながら炎を回避し、女魔法師は慌ててマジックシールドの魔法を唱えて、透明の盾を展開して炎から女司祭を護る。
もう一人の女魔法師はファイヤの魔法を唱えて、炎が女剣豪と戦っている黒オークに直撃し、黒オークは炎に焼かれて絶叫したが、炎に体を焼かれながらも斧を振るって剣豪に反撃しており、全く怯んでいなかった。
「ぐっ、黒オークに魔法を使う個体がいるなんて厄介すぎる……」
女魔法師は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべている。
彼女が魔法で黒オークソーサラーを狙い撃たないのは、彼女らが前衛たちに護られているように、黒オークソーサラーたちも黒オークたちに護られているからだ。
そのため、女魔法師たちが魔法攻撃を行えばその攻撃は黒オークたちに当たることになり、黒オークたちを一匹ずつ誘き出す作戦が破綻する可能性が高かった。
マルは上目遣いでシルルンをじーっと見つめている。
彼女はこの状況を自分なら好転できると言いたげな顔をしていた。
だが、シルルンはにっこりと微笑んでマルの頭を優しく撫でる。
(マルを応援に出しても黒オークソーサラーを倒せないから状況は変わらないんだよね……それに九人組が恩を返したと思わなければいつまでもめんどくさい状況が続く……)
シルルンは水撃の弓を構えて黒オークソーサラーに狙いをつけたが顔を顰めた。
「う~ん、ちょっと難しいね……」
(黒オークソーサラーを倒すことは簡単だけど黒オークたちを巻き込んだら乱戦になる……そうなると九人組は恩を返したとは思わないだろうね……)
シルルンは複雑そうな表情を浮かべながら全力で『集中』を発動し、黒オークソーサラーだけを射抜けるラインを探る。
しかし、彼はあまりに集中し過ぎて無意識に『能力合成改』を使用しており、彼が所持していた『集中』と『弓神』で得た『集中』を合成していた。
すると、時が止まった。
本来、『能力合成改』で『集中』と『集中』を合成すると『集中』のレベルが一段階上げるだけだ。
だが、シルルンが所持していた『集中』はあらゆることに使い込まれて磨かれており、一気に『超集中』に進化を遂げたのだった。
『超集中』の効果は時が止まるというものだが、それは動かなかった場合のことで動けば時は動き出す。
しかし、この時点で彼は『集中』が『超集中』に進化していることに気づいておらず、いくら待っても黒オークたちが動き出さないことに違和感を覚えていた。
「……」
(なんで誰も動かないんだろ? ていうか直線軌道じゃ黒オークに当たる……けど山なりに水弾を撃てたら黒オークソーサラーを狙い撃ちできる)
シルルンはそう思うと同時に二発の水弾を放っていた。
そして時は動き出す。
二発の水弾はシルルンがイメージしたように弧を描いて飛んでいき、黒オークソーサラーたちの頭を吹き飛ばした。
シルルンは『弓術必中』に目覚めたのだった。
「――えっ!? 今、水弾が曲がってませんでしたか?」
リジルは水弾が着弾した地点を目を凝らして見つめている。
「うん……どうやら『弓術必中』に目覚めたみたいだよ」
「なっ!?」
リジルとアニータは面食らったような表情を浮かべている。
「ゆ、『弓術必中』って聞いたことがないけど、矢が百パーセント当たるという能力ですよね?」
「うん、狙った対象に矢が百パーセント当たる能力みたいだね」
シルルンはフフ~ンと胸を張る。
「す、すごい!! さすがボス!!」
リジルは自分のことのように喜んでいた。
だが、アニータはただならぬ表情でシルルンを見つめていた。
彼女は今更ながらにリザが言っていた“シルルンは凄い”という言葉を心の底から実感していた。
アニータは【怪盗】に転職したときに職業固有以外の能力である『アイテム解析』に運良く目覚めた。
しかし、このようなことは極めて稀で、転職がきっかけて目覚めた能力と言っても過言ではなく、彼女はそれ以外の能力には目覚めたことがなかった。
そのため、アニータは能力に目覚める難しさを知っており、それが自力で目覚めたのだからなおさらだった。
ちなみに、一般的な冒険者が生涯で転職できる回数は二回ほどだと言われており、その中には下級職から下級職に転職した回数も含まれていた。
つまり、一般冒険者が能力に自力で目覚める可能性は絶望的で、その可能性が僅かに上昇する機会も二回しかなかった。
「ふぅ、怒り狂って黒オークたちが襲い掛かってくるかもしれないと思ってたけど、どうやら杞憂みたいだったようだね」
シルルンは安堵したような顔をした。
火傷が回復した女重戦士たちが前線に復帰し、黒オークソーサラーたちが死んだことにより、女重戦士たちは黒オークたちを一匹ずつ引き寄せて危なげなく倒していく。
そして、女剣豪が放った『斬撃』により、黒オークが激しい血飛沫を上げて倒れた。
「よし、黒オークたちの守備力が下がったぞ!!」
女剣豪は歓喜の表情で声を張り上げた。
彼女が言ったことは真実で、女重戦士たちの攻撃も僅かだが黒オークにダメージを与えており、黒オークは滅多切りにされて息絶えた。
黒オークの守備力が下がった訳は、彼らの数が十匹を割ったからだ。
それによって守備力が二倍から一・五倍に低下している状況なのだ。
この機をリザたちが逃すはずもなく、リザたちは一気に攻勢に出て黒オークたちは斬り刻まれて肉片に変わって全滅した。
それを目の当たりにした黒オーガ二匹は、怒りの形相を浮かべて凄まじい速さでリザたちに向かって突進し、リザとロシェールは黒オーガたちと対峙した。
「グルァアアアアアアァ!!」
黒オーガたちは『威圧』を放ったが、同格といっても差し支えないリザたちには『威圧』は効果がなかった。
黒オーガはロシェールに目掛けて斧を振り下ろし、ロシェールは盾で斧を受け流して剣で攻撃しようとした。
だが、黒オーガの斧の一撃はロシェールが予想していたよりも遥かに強く、盾が弾け飛んでロシェールは体勢を整えるために後方に跳躍する。
リザは凄まじい速さで黒オーガに向かって突撃し、黒オーガもリザに目掛けて凄まじい速さで突進した。
黒オーガは真横に斧を振るったが、リザは速度を落とすことなく半身になって斧を躱しながら回転し、瞬く間に黒オーガに肉薄して『回転斬り』を放って黒オーガの胴体を斬り裂いた。
しかし、その一撃は黒オーガの致命傷にはならず、黒オーガは無防備のリザの背中に目掛けて斧を振り下ろした。
その刹那、リザは二段回転は間に合わないと直感して反転し、紙一重で斧を躱しながら頭の中で何度もトレースしていた必殺の一撃を放つ。
黒オーガは肩口から斜めに斬り裂かれて胴体が地面にずれ落ちて、下半身から大量の血を噴出させて即死したのだった。
リザは『回転斬り 反』のスキルを取得したのだった。
「なっ!? もう倒したのか!?」
それを目の当たりにしたロシェールは驚きを隠せなかった。
「つ、強い!?」
女怪盗たちは驚きのあまりに血相を変える。
「やっぱり、リザは変わらず強いわね……」
(本当に下級職のままなのかと疑いたくなる強さだわ)
アニータは感心したような表情を浮かべている。
「……やはり、私には覚悟が足らないようだな」
ロシェールは意を決したような表情を浮かべて『鼓舞』を発動し、自身の士気を上昇させる。
黒オーガはスリープの魔法を唱えて、黄色い風がロシェールに襲い掛かる。
ロシェールは左に跳躍して黄色い風を回避して、凄まじい速さで突撃して黒オーガの胴体を剣で斬り裂いた。
だが、間合いが浅く胴体の両断には至らなかった。
黒オーガは怒り狂って斧を振り下ろし、斧がロシェールの左肩に直撃してロシェールの左腕が宙に舞い、斧は地面に直撃して地面は爆砕した。
しかし、ロシェールは表情も変えずに狙いすました剣の一撃を黒オーガの首に放ち、黒のオーガの首が宙を舞った。
彼女は相打ち覚悟で左腕を斬らせて、三メートルを超える巨体の黒オーガの頭を下げさせて黒オーガの首を刎ねたのだ
黒オーガは体から噴水のように血を噴出させて地面に突っ伏したのだった。
これまでのロシェールはこのような相打ち覚悟の戦術はとれなかった。
隊のリーダーだったからである。
だが、シルルンに剣を捧げてただの隊員になったことにより、彼女は完全主義者だった思考から完全に開放されていた。
ロシェールは晴れ晴れとした表情で自身の左腕を拾ってヒールの魔法を唱えて、腕を繋げながらシルルンの方に顔を向けて屈託なく笑う。
「ひぃいいぃ!?」
(腕を斬り落とされたのになんで笑ってるんだよ……やっぱり、ロシェールは狂ってる……)
シルルンは恐怖で顔が蒼くなる。
「うがぁああああああああああああああああああぁぁぁぁ!!」
最後に残った黒オーガは狂ったように咆哮した。
「ぬう……不味いですぞ主君……あれはダークネスの魔法ですぞ」
「えっ!? ダークネスの魔法って攻撃魔法じゃないの?」
「……副次効果は暴走で爆発的に強くなりますぞ」
「えっ!? マジで!?」
シルルンはびっくりして目が丸くなる。
黒オーガは両手で斧を振り回しながら凄まじい速さで一直線にロシェールに目掛けて突進して斧を振り下ろした。
そのあまりの速度に仲間たちにはロシェールが斧で頭から両断されたように見えており、斧は地面を激しく破壊して砂煙を上げている。
「は、速い!?」
リザは雷に打たれたように顔色を変える。
「ロ、ロシェール!?」
女怪盗たちは泣きそうな表情で金切り声をあげた。
しかし、ロシェールは直感で左に跳躍して即死は免れていたが、斧による攻撃で右肩から斬り裂かれて右腕が宙に舞っており、それでもさらに左に跳躍して黒オーガから距離を取ろうとした。
だが、黒オークはロシェールの目の前にいた。
「なっ!? そ、そんな馬鹿な……」
ロシェールの顔が驚愕に染まる。
黒オーガはロシェールの頭上に目掛けて斧を振り下ろし、ロシェールは回避不能の一撃を前に目の中に絶望の色がうつろう。
しかし、金属同士が激しく衝突する金属音が辺りに響き渡り、ロシェールの目の前には斧を剣で受け止めるシルルンの姿があった。
「――なっ!?」
ロシェールは呆然として身じろぎもしない。
「プルとプニはロシェールを回復して!!」
「分かったデス!!」
プルは『浮遊』でふわふわとロシェールの傍に移動した。
「デシデシ!!」
プニは『飛行』で素早く移動してロシェールの右腕を回収し、ロシェールの傍に移動して右腕をロシェールにひっつけた。
「ヒールデス!!」
「ヒールデシ!!」
プルたちは同時にヒールの魔法を唱えて、ロシェールの右腕は繋がって体力も全快した。
シルルンと黒オーガは視認するのも困難な速度で戦いを繰り広げており、周辺にはけたたましい金属音が響き渡っていたるところの地面が爆砕している。
「しゅ、主はあんな化け物と単独で渡り合えるのか……」
ロシェールはシルルンの残像を目で追いながら尊敬の眼差しを向けている。
「ね、ねぇ……これってどっちが有利に戦ってるの?」
リジルは戸惑うような表情でリザに尋ねた。
その言葉に、皆の視線がリザに集中する。
「黒オーガがシルルンを一方的に攻撃してるけど、シルルンは受けたり避けたりしてるだけで反撃していないのよ……」
リザは心配そうな表情で視線をプルたちに転じた。
「マスターと一緒に戦うデス!!」
「デシデシ!!」
「フハハ!! 無用な心配よ。あの程度の速さでは主君に追いつけぬからな」
ブラックは得意げな表情を浮かべている。
彼が言うように黒オーガの素早さは千五百ほどだが、『反逆』を発動しているシルルンの素早さは七千を超えていた。
一方、シルルンは戸惑いながら戦っていた。
黒オーガの動きが止まって見えることがあるからだ。
シルルンは黒オーガと戦いながら検証して『超集中』に目覚めていたことに気づいた。
だが、彼は『能力合成改』で『超集中』に進化させたことには気づいておらず、勝手に目覚めたと思っていた。
「う~ん……動かなければ時が止まる能力か……動いても時が止まってれば最強だったのに……」
シルルンは不満そうな表情を浮かべている。
しかし、『超集中』は時が止まるだけでなく、全ての行動の精度が著しく上昇して極めて高い確率でクリティカルが発生する。
ちなみに、クリティカルすれば攻撃力は三倍になり、さらに相手の守備力も無視される。
シルルンは黒オーガが放った斧の一撃を剣で弾き返して、後方に大きく跳躍して距離を取った。
そのあまりの速さに黒オーガはシルルンを一瞬見失って辺りを見回した。
「じゃあ、終わりにするよ」
シルルンはミスリルソードを魔法の袋の中にしまう。
黒オーガは遠く離れた場所に立っているシルルンを視認して、凄まじい速さでシルルンに目掛けて突進し、シルルンも一気に加速して閃光になって両者は交差した。
シルルンはゆっくりと振り返って静かにミスリルソードを魔法の袋にしまったが、黒オーガは勢いよく振り返る。
だがそれは上半身だけだった。
黒オーガの上半身は地面にずれ落ちて、下半身から大量出血して黒オーガは絶命したのだった。
「な、なんだ最後のは!? しゅ、主は瞬間移動ができるのか!?」
ロシェールは大きく目を見張って絶句した。
言うまでもなく、シルルンが放った技は袋斬りだが、ブラック以外は誰も見えない一撃だった。
シルルンは仲間たちの元にゆっくりと歩いていくと、プルたちが黒オーガの群れの死体のほうにふわふわと飛んでいった。
「主よ……お手を煩わせてしまい申し訳ありませんでした」
ロシェールはシルルンの前で跪いて深々と頭を下げる。
「まぁ、あれは仕方がないよ。僕ちゃんも黒オーガが暴走するとは思ってなかったからね」
(とはいえ、一歩間違えたらロシェールは死んでたから、やっぱり黒オーガは瞬殺しておくべきだったね)
シルルンは自嘲気味に肩をすくめた。
プルたちはプルルとプニニに黒オークたちの死体を『捕食』させている。
「装備品は『捕食』しないで口の中にまとめておくデシ」
「デチュデチュ!!」
「デチデチ!!」
プルルたちは頷いて全ての黒オークたちの死体を捕食した。
「装備品はこの袋のなかに入れるデシ」
プニたちはプルルたちを連れてシルルンの傍に移動して、シルルンの魔法の袋にプルルたちは装備品を吐き出した。
シルルンたちは先に進み始めたが、一向に魔物に遭遇せずに開けた場所にでた。
中央には魔法陣があり、その前にはセルキアたちの姿があった。
「あれ!? なんでセルキアたちがいるんだよ……」
「もしかするとどのルートを選んでもここに繋がっているのかもしれませんね」
「えぇ~~っ!? マジで!? それが分かってたら正面のルートに進んでたのに」
シルルンは不満そうな表情を浮かべている。
セルキアたちは魔法陣から出現する木偶車を囲んで瞬殺していた。
「あはは、やっぱり数を倒さないと白い転移石が落ちないからそういう戦い方になるよね」
「魔族に気を取られて気づかなかったけど、ここには冒険者が三隊いるわよ」
「となると私たちの番が回ってくるのは冒険者たちの後になるのか……」
リザの言葉に、ロシェールはめんどくさそうな顔をした。
「まぁ、そうなるだろうねぇ……」
シルルンは魔法の袋から魔車を一台取り出して地面に置いて休憩し始めたのだった。
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