吹っ飛ぶ全て
見た瞬間に、心が灼熱していた。
生まれて初めてだった。
勿論、ガキの頃なんざ、勝てない奴だって存在した。
ただ、それはガキだから勝てないんであって、今の俺が相手をしたら瞬殺できるわけだ。
だが、今は違う。
今、この時、勝てないかもしれないって敵が目の前に現れやがったのだ。
これで、何も感じないってんなら、それは心が腐っちまってるって事だ。
灼熱して、だから、腐っちゃいねぇが、ヤバいのはヤバい。
足を止め、対峙する。
「よぉ」
「最初の相手が、ここまでの化物とはな。カミムが虚言を弄したわけではないと、すでに証明されたわけか」
何を納得しているのか、まあ、そいつはどうだっていい。
こっちが相手を化物だと理解したように、相手がこちらを化物と認識してくれたのは嬉しい限りだった。
「オレは雫、テメェは?」
「ビュリックだ」
ビュリック、へぇ、ビュリックねぇ。
当然、名前だけで何かが判明するわけもない。
剣を抜く。
グダグダとお喋りをして、誰かに邪魔なんてされたら勿体無い。
「テメェの得物は何だよ?」
ビュリックは拳に鋼鉄の塊を装着する。
「殴るってか?」
「いや、粉砕する」
笑いが零れちまう。
こういう馬鹿が、オレは嫌いじゃねぇ。
「じゃあ、やるか?」
「最初の一撃から、全力で来い。さもなくば、一撃で終わるぞ」
ついさっき、本気を出したばかりだ。
このオレが、1日に二度も本気を出すのか。
まあ、本気を出さずに戦える相手じゃない。
「本気でやってやる!」
そう応じた瞬間、ビュリックが跳躍していた。
右の拳を引き、握り込む。
文字通りの一撃必殺というわけだろうか。
面白い。
「星壊…」
放たれた拳撃は、理解の範疇を遥か彼方に超え切っていて、そして、受けた瞬間には終わっていた。
「かっ、馬鹿な…」
立てていた事すらも奇跡に思える。
周囲を確認する余裕なんてまるで無かったが、周囲がまるで存在しない事は見なくても理解できる。
「これを喰らってまともに立っていた奴は2人しか見た事が無かったが、流石に何処かの世界で最強を誇っていただけはあるな」
2人だと。
この奇跡を、オレ以外に2人も。
「…ッざけんな」
「まあ、あの2人は即座に反撃してきたから、その点では動けない時点で遥かに劣るのだろうが」
「舐…めんなぁ!」
無理矢理に全身を稼働させ、本気で殺そうとしたオレが見たのは絶望だった。
右の拳を引き、握り込む。
跳躍せずとも撃てるのか、連続で撃てるのか、無茶苦茶すぎるだろうが。
ただ、オレだってここで止まるくらいなら、死んだ方がマシだった。
大上段振り下ろしの一閃。
それに対し、見事なまでに拳を合わされた。
「星壊!」
最初の衝撃によって刃が体の中心からずらされてしまった事だけが幸いして、衝撃が顔の横を抜けた。
ただ、剣は跡形もなく吹っ飛んでしまったが。
そうして、オレの誇りも吹っ飛んで…。