方針転換
不満はあった。
雫は強いのに、俺は逃げてばかりだ。
隠れ家もゲットできなかったし、その後に会った妙な奴とも戦わなかった。
まあ、俺としては召喚王になりたいわけではなかったから、雫が俺を守り切ってくれるくらいに強いと分かったのは収穫ではあったが、逃げ回って生き永らえるなんて格好悪くて仕方が無い。
「なあ、雫。次はさ、…えっと、殺してくれても、いいんだぜ?」
「オレが誰かの召喚した奴だけを殺して、残された召喚士は他の召喚士に呉れてやるってか?どういう慈善事業だ、それは?」
「いや、召喚士の方も殺したらいいじゃん」
正直、雫が何を言っているのか、意味が分からなかった。
だから、即座にそう反応したのだが、切り返されたのは鋭い舌打ちとひと睨みだった。
「何だよ…」
「テメェは召喚王になりたくねぇんだろ。召喚士を殺しちまったら、召喚王に近付く。分かってんのか?」
「あっ…」
確かに、雫の言う通りだった。
逃げ回りたくはないが、勝ち続けてしまったら俺が召喚王になっちまう。
いや、でも、俺はどうして、召喚王になりたくなかったのだろうか。
まあ、すぐに答えは思い出される。
面倒だからだ。
王様になんてなっちまって、俺が世界を支配するなんて御免だ。
でも、逃げ回りたくもなければ、誰かに負かされたくもないし、従わされるのも嫌だ。
「…なあ、方針転換、いいか?」
「言ってみろ」
「やっぱさ、俺が召喚王になるわ」
「なりたいのか?」
「なりたいってわけじゃねぇよ。たださ、負けてもいねぇのに逃げるって、ダセェって思うから」
「テメェがなりたいってんなら、オレは構わないさ。元々、召喚士を召喚王にするって話で、オレは召喚の話に応じたわけだしな」
「何か、回り道させちまったみたいで悪かったな」
「いや、気にすんな。構わねぇよ」
「それでさ、さっきのって、召喚士だったのかな?」
雫は少し考えてから、首を傾げて言う。
「アレは放置だ。数の差が、こっちに分が悪すぎだ」
「仲間、増やすべきなんだよな?」
「ああ。オレが戦ってる間、テメェを守ってくれる奴が必要だ。相手が複数の場合を考えんなら、こっちも何人か守りが欲しいってのが本音だ」
敵の数がどれほどだろうと、自分だけで殺せるっていう自信が、そして、実力が雫の凄味だ。
だったら、とにかく、雫に倒してもらう為に召喚士を見つけなければならない。
「なあ、雫」
「敵だな」
「えっ?」
そう応じた時、ようやく、頭の中に召喚士の顔が浮かんだ。
「何で、俺よりも先に召喚士の接近が分かったんだ?」
雫が口の端に笑みを浮かべ、黙ったままで前方を指差した。
それを辿って見ると、そこに1人の男を見つけた。
一見、何の変哲もない男だった。
「アイツが、その、何だよ…?」
「テメェが察知した召喚士が召喚した奴かは知らねぇが、アレは化物だ」
「アレが…?」
やはり、何の変哲もない男だ。
「本当かよ?」
「俺の人生で最強の敵だ」
「さっきの奴らよりも?」
「あの程度なら、一対一で遅れをとる可能性はねぇよ」
「じゃあ、あの男になら…?」
ヤバい、雫が負ける可能性のある敵。
そんなのと戦う意味なんて、皆無だ。
「おい、雫、アレも放置なんだよな…?」
「やらせろ。あそこまでの化物と戦える機会を逃がすつもりはねぇよ」
「雫、待ってくれよ!」
「行くぞ、オラァ!」
俺の制止なんてまるで聞こえなかったかのように、雫が一気に男との距離を詰めてしまう。
残された俺には、雫の勝利を祈る以外の道は残されていなかった…。




