一花咲かす為に
目覚めた瞬間、榊周一郎は左手のサイコロを投じていた。
10。
そして、右手のサイコロも躊躇なく投じる。
6。
サイコロが消えるのを見て、満足げに頷く。
「さあ、鬼が出るか、蛇が出るか、どうじゃろうな」
出たのは、朽ちかけた鎧を纏い、錆びてボロボロになった巨大な剣を持った偉丈夫だった。
「我が名は、死骸地の王。貴様が我が主となる者か?」
「ワシは、榊周一郎じゃ。お前さんと組んで、この世界の支配者になりたいと思っておる」
「支配者…。それは、我欲を満たさんが為か?」
鋭い質問に、だが、榊はたじろがなかった。
「死ぬ前に一花咲かせたいと思っておる。野望じゃな、それを欲と捉えられたならば、ワシは不満じゃが、怒りはせんよ」
「すでに、潰えた身としては理解できない思考よ。だが、貴様は我を召喚し、共に歩もうとする者。ならば、この命を賭して、我は貴様に勝利を授けよう」
「感謝するよ、異世界の騎士よ。先程、夢で会った珍妙な奴、質問があるんじゃが…」
「呼ばれて参上、ホホイのホイ!」
相変わらず、ふざけた奴だった。
ただ、参加者の誰も体験した事が無いだろうし、知り合いでもないわけだから、情報を引き出す相手が唯一であるには違いない。
「カミムよ、感謝するぞ。我は素晴らしき召喚士に巡り会えた」
「いやいえいよ、こっちの細工じゃなくてそっちの運命なんで、礼は結構コケコッコー!」
カミムという名前を認識した上で、死骸地の王とも面識があると分かった時点で、これがかなり大掛かりな事であるのだろうと分かった。
いや、そんな事はとっくの昔に分かっていたはずだ。
今さらになって、自分を飾ろうとする必要はない。
飾られていないからこそ、最後に一花咲かせてやりたいのだから。
「他の召喚士に接近した場合、どうやって確認すれば良いんじゃ?一般人かもしれない相手に対し、ワシは死骸地の王に剣を振るわさねばならんのか?」
「ビジョン写真画像が頭の中に出ますねぇ。ただし、それは召喚士のみ。召喚士の頭にのみ出てて、召喚士の事だけが分かりますねぇ、ええ、ええ」
「つまりは、そこがワシの重要な役割というわけじゃな。その浮かんだ人物像を死骸地の王に上手く伝えると」
「うーんむ、その通りではあるんですからでしょうけどだけど、正直に言いましょうか?」
「聞きたいものじゃな」
「いやいやいやいやいやいやいやいやいやいや、やいやい言っても結局は同じ事ですから、黙さず語らず秘密にしておいたらと考えました!」
カミムをまともに相手にしたところで、正直、意味が無い。
「もう良いよ。後は、ワシらだけで考える」
「ではでは、またご利用のほどはいつでもお呼び下さいませよ、旦那」
「カミムが何を語らずに去ったか、お前さんには分かるかのぅ?」
「分かるが、我自身が語るべき事ではない」
「そうか、…ふむ、ならば、構わんよ」
一呼吸、間を置いてから、死骸地の王がぶっ込んでくる。
「では、行こうか、我が主よ。戦争を始めようぞ」
咄嗟に反応できず、黙ったままで見つめていると、それにも構わずに剣を振るった。
テーブルの上に置いてあった食器が粉々に砕けて弾け飛ぶ。
「温く澱んだ日常は終わりだ。これからは戦場に入る、覚悟を決めろ」
「やはり、一花咲かすには最高の相棒じゃよ、お前さんは」
先手必勝、それを刻んで、刻み付けて、榊と死骸地の王は始まるのだ…。