輝かしき過去
専業主婦という立場上、時間だけは腐るほどあった。
勿論、家事を怠るつもりはないが、上手くやれば時間は幾らでも作れるのだ。
普段、趣味の読書に充てている時間を全て今回の出来事に注ぎ込めば良い。
「とりあえず、教えて欲しいんですけど、『赤天の宝彩』というのは具体的に何が出来るんですか?」
「何を言ってるのよ、アンタ。『赤天の宝彩』は異名よ、異名。アタシの強さに対し、人々がそう呼ぶってだけ、分かる?」
「じゃあ、ヴァレリーさんは具体的にどんな戦い方をするんですか?私もそれを知っておいた方が良いと思うんです」
「アンタがアタシの事を知って、何の役に立つって言うのよ。アンタに出来るのはせいぜい、アタシの邪魔にならないような動きをするってだけよ、分かる?」
二度も同じやり込め方をされると、流石に苛立つ。
大人が子供を諭すような感じで、どちらが主で、どちらが召喚された方なのか、まるで分からない。
まあ、実際、ヴァレリーの方が年増だし、自分よりは年長者ではあるのだが。
そう考えると、少し愉快になって笑ってしまう。
「何が可笑しいのよ、笑ってんじゃないわ」
「いえ、ごめんなさい。まさか、自分の強さも説明できないなんて思わなかったんです」
「あぁ?」
恐ろしかったが、笑顔は崩さない。
どっちにしろ、ヴァレリーは下手な事が出来ないのだ。
「アンタを殺せないってだけで、痛め付けて教育してやるなんて事は出来るのよ?」
ゾクッとした。
ただ、笑顔は保つ。
最悪、舌を噛み切って死んでやれば良い。
それだけだ。
「全く、無駄で無意味だけど、説明してやるわ。アタシは圧倒的な火力で敵を捩じ伏せていたのよ、若い時はね」
一瞬、嫌な予感を覚えた。
もしかしたら、偉そうな態度だけの昔は強かったというハズレを引いてしまったのではないだろうか。
「ま、今は昔ほど自由にやれないから、ちょっと技巧派っていうか、老獪さで、…ああ、違うわ、華麗な動きで相手を翻弄してるって感じね」
老獪。
年寄りになって、昔よりも弱くなったから、それを隠そうとして虚勢を張っている。
頭が痛くなってきた。
この生意気な口振りや態度を我慢してやった挙句、かつて強者だった劣化版を相手にしなければならないとは何たる屈辱だろう。
「勝てるんですよね?」
「はっ、笑わせんじゃないわよ。少し鈍ったくらいで、このアタシが落ちたとでも思ってんの?どんな奴が相手だったとしても、このアタシに負けなんてありえないのよ。理解しなさい、屑が」
まず、1勝だ。
勝てば、そいつを従えて、新たな戦力が出来る。
暫くはポイントよりも戦力を重視する。
ヴァレリーだけではどうにもならない。
どうにも、召喚王への道は険しく遠いようだった…。