敢えて踏み込む
正直、杏奈の介入がなければ、どうなっていたかは分からなかった。
それでも、俺は言わずにはいられなかった。
「君達は俺の言葉が理解できないのか?」
杏奈は俯いてしまうが、リョウは違った。
「僕達が来なかったら、おじいちゃんは殺されていたと思うよ。だから、僕達が来るのは正しかった。僕はそう思ってる」
「正しい事を選択し続けても、最終的に勝利を掴まなければ意味が無い。現状を見て、どう思う?」
すでに、八方塞がりの状態に陥っていた。
全方位からの一斉攻撃により、身動きすらままならない。
防御に優れた杏奈の風と、俺の力によって妨げる事は出来る。
だが、そこから先がないのだ。
「おじいちゃんは嘘をついたの?」
「どういう意味だ?」
「おじいちゃんは不可能を可能にする事が出来るんじゃないの?おじいちゃんは自分の思い通りに世界を変える事が出来るんじゃないの?それなのに、敵が多いってだけで、降参しちゃうの?」
思わず、笑ってしまう。
そうだ、追い詰められているなどと、どうして思ってしまったのだろうか。
所謂、逆境というやつに立たされた事が今までの人生で無かったせいか、すぐに下らない思考法に陥ってしまったようだ。
「ふむ、確かに、な。もう、すでに俺の力は、これを上回ってしまっていて、苦労すらも出来ないか…」
迫り来る攻撃の全てを、それを放った相手に返してやる。
それだけで、一気に形勢が逆転する。
「包囲殲滅、見事だったぞ。この俺を一時的とはいえ、自暴自棄にさせたのだからな」
だが、もう終わりだ。
ここからは、勝利しか無い。
「スゴい、スゴい、おじいちゃん、やったー!」
喜ぶリョウと複雑そうな表情をしている杏奈を見て、俺は口の端に笑みを閃かす。
「さあ、リョウ、召喚士を探しに行こうか」
「うん、行こうよ、おじいちゃん!」
こちらの動きを呼んだのか、敵が一斉に後退を始める。
全員が全員、同じ方向を目指しているようだが、それはこちらを罠に嵌めようとしているのかもしれない。
「君達は空から、召喚士を探してくれ。俺は奴らを追撃しつつ、その行く先を確認する」
「おじいちゃん、また、1人で勝手に何かをしようとしてるんじゃないよね?」
「君達を信用しているからこそ、可能性の高い方を任せるんだ。それに、もう、俺は彼女達に負ける可能性は皆無だからな」
決して嘘ではなかったが、全て本音というわけでもなかった。
上空という圧倒的に優位な場所にリョウを移動させるというのは、この場合、かなり重要な事ではあった。
どこまで自分が無謬の存在に成り上がろうとも、世界に絶対はない。
何らかの不幸な出来事が重なって、リョウが死ぬような事になってしまえば、それで終わりだ。
だから、打てる手は全て打っておくのだ。
「おじいちゃん、信じても良いんだよね?」
「ああ。信じる以外の選択肢はないだろう。それが、俺とリョウの間柄だ」
「分かったよ。行こう、お姉さん!」
杏奈は無言だった。
それが意味するところを、俺は理解できない。
ただ、彼女が無責任に動くタイプではないという事を承知しているから、敢えて言及はしなかった。
「では、な」
罠か、真実か、或いはその両方か、とにかく、俺は追跡を開始した…。




