灰色の脅威
「へぇ、やっぱ、アイツってかなり強いんだな…」
物陰に隠れて、俺は戦いを見守っていた。
召喚士の顔が頭に思い浮かぶよりも先に、召喚された方と遭遇してしまうなんて事態に面食らってしまったのは、俺だけだった。
雫は、俺が召喚したアイツは、ここに隠れていろと言い放ち、即座に戦いを始めてしまった。
「でも、相手だって、相当の実力者だろ、これ…」
年齢は俺よりも若いだろう、まるで異世界の住人とは思えない。
「まあ、でも、雫の勝ちはほぼ確定か…」
呟いた時、変化が生じた。
敵側に加勢が現れたのだ。
そして、それに対する反応が苛烈だったのは、雫ではなく、それまで戦っていた若い男の方だった。
負けそうだったくせに、プライドだけは一人前だなんて、情けない奴だと思う。
それにしても、あの加勢はどの程度の強さなのだろうか。
若い方も相当な代物だったが、アレと同等だったりなんかしたら、流石の雫もヤバいだろう。
やがて、戦いが再開され、加勢に来た年配の男の実力を見せられた時、俺は意識的に舌打ちした。
「何だよ、アレ…」
強すぎた。
若い男よりも、雫よりも、速度は明らかに遅い。
ただ、攻撃力が桁違いだった。
勿論、雫には劣るのだろうが、若い男に欠けていた攻撃力という部分を補って余りある。
何よりも驚異的なのは、アレも召喚された奴であるという事だろう。
現時点で単純に、召喚士が召喚士をすでに従えているという構図が成り立つ。
そして、そうだとすれば、従えている召喚士が1人だと、誰が言えるだろう。
どちらにしても、このままでは雫が負ける。
いや、負けないとしても、無事では済まない。
別に、俺は召喚王なんかには興味が無い。
従えと言うなら、その野望を持ってる奴に従ってやっても良い。
ただ、それは、そいつが召喚王になる器である場合だけだ。
仮に中途半端な奴で、道半ばで倒れたら道連れにされてしまうのだから、そういう奴には従いたくない。
つまり、今、俺が選ぶべき道は、撤退だ。
「雫、ここは退くべきだ!」
物陰から飛び出して、戦っている最中の雫に届くように大声で叫ぶ。
その瞬間だった、声が聞こえた。
「見つけてはいたんだ。でも、確証がなかった。無関係の奴を巻き込むのは御免だったからな」
声のした方、後方を見て、俺はギョッとした。
そこには、この世の物と思われないような灰色が広がっていた。
そして、そこから伸びてくる手に腕を掴まれた時、最大級のヤバさを感じた。
「雫!」
一瞬だった、灰色から伸びていた手が、手首から切断されてしまう。
「だから、隠れていろと言ったんだ」
「雫…」
消えていく灰色に対して、だが、雫は何もしない。
訝しげにそれを見やっているだけだ。
俺の腕を掴んでいる手は、妙な事に切断されたというのに、血が流れていない。
いや、それどころか、消えてしまった灰色を切断箇所から垂れ流している。
俺の腕からその手を強引に引き剥がし、雫はそれを無造作に投げ捨てた。
「敵が多すぎるか…」
「カズト氏を傷付けておいて、俺が逃がすと思うなよ!」
さっきの若い方が一気に距離を詰めて、斬撃を振るってくる。
それに対して余裕で反応したように見える雫は、しかし、その表情にまでは余裕が見られなくなっていた…。