戦略的逡巡
「召喚士になって、勝ち続けて、それで世界を支配するか…」
どう考えても現実とは思えないのだが、今、まさに両手には10面体のサイコロがあって、その感触を手の中で転がしているわけだ。
試しに投げてみたら良いのではないか、それで何も起こらなかったとしたら、明日の仕事に備えて眠れば良い。
何度もそう考え、投げようとしては踏み止まっている。
やはり、サイコロがある以上、投げてしまったら召喚士になってしまう。
そう考えるのが自然で、そうだとするなら試しに投げるなんてハイリスクすぎる。
しかし、サイコロを捨ててしまったら、抹殺されるかもしれない。
相坂の仕事は両手を使わなくて出来る仕事ではないから、まあ、両手を使わなくても出来る仕事というのが想像できないわけだが、とにかく、サイコロを持ったままでは困る。
「質問…なんだが」
個別に設けると言っていたのを信じ、独り言のように呟く。
「はいはいはいはいな!呼ばれた気がしたので飛んで来ましたが飛んでないじゃんって野暮な事は言わないでね」
このハイテンションを夢じゃなく現実で見ると、恐ろしく不釣り合いな気がする。
「サイコロについてなんだが、召喚士になるのを迷っている間、どこかに置いていても問題はないか?」
「はぁ…。はあ?迷う必要があるなんて思いませんけどねぇ。なっちゃえば良いし、なって悪いなんて無いし、ならなくてはならないし、なってもらわなくちゃ駄目だし、なれよ」
「あ、…戦略的にならないってのも駄目か?」
「戦略的ぃ?…分かります分かります分かりますよぉ、先に召喚士になっていった奴がハズレを引きまくってくれたら、当たりを引ける確率が高くなるってそういう算段ですよねぇ?うぅん、実は正しい、正解で間違いじゃない、仮に当たりを引かれまくったとしても、自分が引くのは最初からハズレだったと割り切れるんなら、戦略的最高の待ち!…イエス?」
苦し紛れの言い訳だったが、意外に功を奏したようだった。
慌てて何度も頷くと、少し黙った後で返答がくる。
「捨てる石を持たずに置いておく、アリですよ?た、だ、し、ですよねぇ!置いておいたとして、それが気になっちゃって日常生活なんて無理だと思っちゃうのはこっちの愚かな思考ですかね?」
「少なくとも、自分は気にならない。捨てるつもりじゃなく、じゃあ、枕元に置いといて眠らせてもらうよ。明日も仕事だからね」
「あはははははは、そですか。では困った時はいつでもお呼び下さいませ!」
そう言いながら消えたのに、言葉だけは最後まで聞こえた。
相変わらず、不気味だった。
だが、とにかく安心して、今日は眠る事が出来そうだった。
明日の仕事中はずっと、これについて考える羽目に陥りそうだが、とりあえず、今は寝ようとする…。