星の煌き
「悪い事をした、そんな風に考えている顔だな」
隣を歩く老人の言葉に、首を横に振った。
元々、山田とは仲間ではない。
勿論、親交はあったが、それは友誼の類ではなく、仕事の為に犠牲にしてしまう事など、罪悪感を覚えても仕方が無い程度の代物だった。
「九さんは甘いよ。山田も、襟櫛やカズトも、我らの敵だ。敵は排除できる時に排除しておく。それを見誤った故に、我らは京通を失った」
「分かっている。だから、俺は山田君から情報を一方的に聞き出したし、番井と真南の件も了解した。これ以上、俺に何を望む?」
八村三慧は、苦笑を閃かせる。
「とにかくだ、山田君の件は終わった。彼はあそこで死ぬだろう。これからは、残り2人の話だ」
「襟櫛とカズト、あの2人には相応の報いを受けてもらわなければならない」
「あの建物だけでは満足できず、世界をも望んでしまった報いというわけだな」
「雑魚は雑魚なりに、分相応の分け前で満足しておけば良かったのにな」
きっと、襟櫛とカズトは八村を無駄に刺激してしまった事を後悔する事になるだろう。
そう、この八村という男は、自分の人生において数少ない敵に回したくない男だった。
「準備は終わっているのか?」
「勿論だ。世界全土の特異性を有する者達を結集した新たな組織、その実力を知らしめる最初の機会としてやる」
「それで、俺はどうすれば良い?」
「九さんを駒のように扱いたくはないが、前線に立ってもらえると嬉しい」
「望むところだ、有難い」
山田が死ぬ原因を作ったのが俺だと知ったら、襟櫛とカズトは決して俺を許さないだろう。
必ず、殺すつもりで向かって来る。
それを相手にして、彼らを捩じ伏せるか、或いは叩き潰されるか、どちらにしても面白い。
本来ならば、山田もこの手で殺してやりたかった。
それが、若くして命を散らす者に対するせめてもの餞となるはずだから。
「彼らは今、どこにいる?」
「ヨーロッパの方に遠征しているようだ。向かうか、日本で待つか、どうする?」
「飛行機で向かっても行き違いになる可能性が高いな」
「いや、行き違いになる可能性については心配する必要はない。九さん、私が聞きたいのはだな、戦い慣れた日本で殺すか、見知らぬ土地でも殺せるか、そういう意味だ」
どちらかと言えば、向こうで殺して欲しいという口振りだった。
そして、自分自身、待つのは性に合わない。
「飛行機の手配をしてくれ」
「分かった。彼らの姿を見失わないように、案内人をつけよう」
案内人として紹介されたのは、芳賀文雄という老人だった。
90歳を超えているそうで、この年齢まで働かされるのかと考えると、少しゾッとする。
『里眼』という千里を見渡せる特異性を有しているそうだったが、俺は彼のその千里を見渡せるという両眼に宿る貪婪な光が気になってしまう。
「彼は、その、大丈夫なのか…?」
「いや、済まない、九さん。こういう目をするような男ではなかったのだが…」
「八村三慧、九、お前さん達を始末して、組織はワシが貰うぞ」
「やれやれ、組織がようやくまとまったと思ったら、すぐにこれだ…。九さん、ヨーロッパに向かう前に一仕事、頼まれてくれるか?」
「仕方が無い。それにしても、目が良いというだけで、彼はどうやって俺達を殺すつもりだ?」
「仲間が来ている可能性は、…いや、近くには誰もいない」
八村がそう言うのならば、それは確かなのだろう。
そして、そうだとすれば、芳賀が野望を口にした理由が謎すぎる。
しかし、今は謎を解明する時間ではなく、野望を粉砕する時間だ。
「…星の煌き」
光弾を眉間に当て、相手の視線を上空へと逸らす。
俺の戦いにおける第一段階は、しかし、投じられた石ころによって弾かれてしまう。
そして、それと同時、上空から小さい影が落下してくる。
少年、中学生くらいの少年だった。
八村をチラリと見やる。
彼は舌打ちし、呻くように呟いた。
「私が空を把握できないのは、九さんも知っているだろう…」
知っている。
だが、今、問題視すべきなのは、敵が2人いるという事だ。
そして、芳賀が野望を見せた最大の要因は、この少年にあるという事だ。
「雪雨、これが召喚王と組織の主、2つの野望に突き進む覇道の始まりだ」
「了解です、マスター」
雪雨と呼ばれた少年が、穏やかな視線をこちらに向けてくる。
その優しげな視線とは違い、その実力には空恐ろしさも覚える。
「九さん、私も戦おう。アレは、1人で相手をするべきではない」
「頼む。1人で勝てる気はしない」
情けない話だが、虚勢を張っても仕方が無い。
まあ、だが、八村と組めば、負けるものでもない。
それだけ、八村の実力は確かなものだった。
「…星の煌き」
常に始まりはここから…。




