幸福の形
「このままじゃ、駄目だ…」
押し入れの中に身を潜めながら、改めて我が身の不幸を呪う。
今、もう、自分は蚊帳の外だ。
敵が来たら、隠れている事を強要される。
杏奈は自分を守ってはくれず、あの湯島涼介という少年を守り、あのバレンという老人と一緒に戦う。
そして、戦いが終わったら、自分には内緒で3人だけで温泉に入ったりするのかもしれない。
羨ましい、妬ましい。
どうやったら、杏奈と温泉に入り、その後も存分に楽しめるのだろうか。
「和吉さん、終わりましたよ」
暗闇の中に光が入ってくる。
案外、早かった。
流石に、3人で温泉に入る暇はなかったはずだ。
それだけは、ホッとした。
押し入れの中から這い出しながら、杏奈の大きな胸を凝視する。
「戦いは、…どうなったんですか?」
最初、杏奈に聞こうとしたのだが、押し入れから完全に抜け出ると、邪魔な2人がいたので彼らに問う。
そう、仲間を増やす方針の彼らに仲間が増えていないという事は、何らかの失敗をしたという事だ。
それが分かっている上での質問だったから、痛快だった。
「引き分けでした。今回は、仕方ないです」
「へぇ…、あぁ、そう、引き分け、ふーん」
実際、結果に興味があったわけではなかったので、大きな胸だけを視界に入れておく。
「興味が無いなら、無駄に問うな」
バレンの言葉も、いつもなら苛立たせられるが、今は視界に幸福を焼き付けている途中だから無視しておいてやる。
「ねぇ、おじいちゃん、実際、おじいちゃんはどうやって戦っているの?僕は見ていても、まるで分からなかったんだけど」
「私も分からなかったです」
そう言いながら、杏奈が彼らの方を向く。
それによって、大きな幸福が視界から外れてしまい、落胆する。
別に、老人がどう戦おうと、知った事ではないのだ。
それよりも、あの大きな幸福を鷲掴みしたい、顔を埋めてやりたい、そっちの方が優先だ。
「言語化するのは難しいな。不可能を可能にする、…いや、自分の思い通りに世界の法則を変えてやる、…うーん、違うか?」
何を荒唐無稽な寝言をほざいてやがるのだろう。
そんな事が可能なら、今すぐにでも杏奈を真っ裸にしてみろという話だ。
「つまりだ、俺は自分の思い通りになる力を持っているというわけだ」
「じゃあ、真っ裸にしてみろっていう話だよ…」
「君を、か?」
心の中で呟いたつもりが、声に出してしまっていたようだ。
それにしても、俺を真っ裸にしてどうする。
相手が違う、杏奈を真っ裸にしてくれ。
「まあ、簡単な証明にはなるか」
突然、全裸になっていた。
一瞬の空白、そして、杏奈が恥ずかしそうに視線を逸らす様子に、年甲斐もなく興奮を覚えてしまう。
露出狂の気持ちが分かったような気がする。
「おじいちゃん、元に戻してよ。お姉さんが困ってるから」
「ああ、そうか」
全裸ではなくなってしまい、でも、相変わらず、視線が合うと、顔を真っ赤にしてしまう杏奈に、興奮が止まらない。
「こういう風に、俺は俺のやろうとした事を何でも出来る。そして、この力で奴を攻撃しようとしたんだが、どういうわけか無効化されてしまったんだ」
「彼の攻撃を私の風が防いでいたように、バレンさんの攻撃を彼が防いでしまったという事ですか?」
「いや、あれは防いだというよりは、やはり、無効化してしまったという方が正しいだろうな」
どうでもいい、心底、どうでもいい。
まあ、どうでもいい話の流れで、新たな楽しみを見つけられたわけで、まだ、自分にも逆転の目は残っている気がして、それだけが救いではあった…。




