暇を持て余した襟櫛
「カズト氏、暇すぎるんですけど」
思わず呟いてしまった事に、自分で反省してしまう。
ただ、当のカズトはそれに対して、たった一言だ。
「ま、そうだよね」
だから、俺は続きを言ってしまう。
いや、本当は言わされてしまったのかもしれない。
「何か、やる事はないですか?」
「勿論、あるよ。ちょっと面白い事を考えているんだ、乗るかい?」
それは挑発と同義の、乗せられて踊ってみるかい、という問い掛けだったのだろう。
ただ、それが分かって、尚、それに乗っからないと、この暇は解消されないという気がした。
「乗りますよ。教えて下さい」
「内容を聞かなくても構わないのかい?」
「やります、暇なんで」
「殺ってくれるのか。流石は襟櫛、俺が見込んだだけの事はある」
やる、のニュアンスが違った気がするが、間違いではないだろう。
そして、仮に見込んでいたのだとしたら、自分から提案してきて欲しいものだと思う。
しかし、そうであったとしたら、面倒事になった時に責任を取らなければならないとか、そういうのが嫌だという側面もあったのだろう。
「なあ、襟櫛、世界は平和になった。一見、そう思うだろ?」
「まあ、そうですね。平和ボケしてしまうくらい平和になってしまいましたね」
この建物で起こった激戦が、今では嘘のようだ。
すでに、建物の内外にある死体は処理されている。
その後で、建物自体を取り壊そうとした活動には、散々、邪魔をしてやって諦めさせた。
最終的には、カズトと谷川が交渉を行い、向こうに納得させたらしいが、その内容は良く知らない。
ただ、適度に暴れられて、俺は満足したというだけだ。
それが、結果的に建物を守る事に一役買ったのだとして、それに不満があるわけもない。
だが、それからが暇なのだ。
世は全て事もなし、平和になってしまって、それに浸れない自分がいるというわけだ。
「俺が徒歩で世界一周をしたって話、憶えてるか?」
「お陰で、大事なとこに遅刻して、この建物で起こる全てを放置してしまった件ですよね?」
「まあ、そうなんだけどな。いや、実際、アレも俺の好きな小説にある考え方からすれば、俺の介入は世界の法則から許されなかったという事になるのかもしれないが…」
そこまで言って、カズトは何やら考え込むように黙ってしまう。
正直、過去を蒸し返して彼を黙らせ、今、俺は暇なままで放置されるのは御免だった。
「とりあえず、世界一周がどうしたって言うんですか?」
「ああ、悪い、その件な。俺は谷川や子供達と世界一周をしていた時、何度か危険な目に遭ったんだ」
誇張に過ぎる、と思った。
カズトを危険な目に遭わすなど、俺でも相当な難題だ。
正直、他に可能性のある奴を考えても、山田くらいではないだろうか。
「実は、特異性を有する奴って、日本だけじゃなくて世界各地にいるんだよ」
「へぇ…」
別に驚きはなかった。
そういう可能性もあるだろうと考えられるし、実際、そういう可能性があったというだけに過ぎない。
「驚かないんだな?」
「いや、まあ、はい」
「とにかくだ、特異性ってのはだ、使う奴がそういう野望を持ってしまえば、世界征服だって狙えるという危険な代物だって事は分かるだろ?」
「そうですね。青岸も実際、奴の思惑通りに全てが進んでいたら、今頃、世界は奴の掌中に収まっていたかもしれません」
「ああ、それは無理だ。世界には、奴よりも厄介なのがいるから」
ちょっと、興味が湧いた。
正直、ジョージの方はともかくとして、青岸を殺したのは彼が力を失ってからであり、その点には不満があったから。
「それでだ、俺達で特異性を持ってる奴ら全員、潰しておかないかってそういう話なんだけどな」
「面白いじゃないですか、カズト氏。改めてその話、乗りますよ」
「流石は襟櫛、俺が見込んだだけの事はある」
久し振りに戦える、悪くない。
いや、最高だ。
最強を継ぐ俺が、世界に最強を示す。
その為ならば、カズトの口車に幾らでも踊ってやろうと思った…。




