無様など素人
「終わったわ、これで完成よ」
言いながら、自分でもやり遂げた感で満たされていた。
まさか、『攻撃性の霧』がこれほどの物だったとは、自分でも理解していなかった。
超常神起という目的に向かい、先鋭化された最強の矛。
それが今、この場に形成されている。
「本当にありがとうございました、これで超常神起は成就されます」
「これからよ、大事なのはこれから。超常神起は確かに大事だけど、アタシが貴方の元に居るという事は、他の召喚士が活動を始めているという事でもあるのよ」
「超常神起の邪魔はさせません、絶対に。全てを排除しましょう」
さらに注意を促そうとして、しかし、口をつぐんでしまう。
戦いは一度でも経験しなければ、言葉だけでは薄っぺらできっと伝わらない。
「とりあえず、近くに敵は居ないわよね?」
「はい。近くに来たら、その召喚士の顔が頭に…って、えっ!」
「どうしたの?」
「今、頭に召喚士の顔が…」
「どんな奴?」
「老人です…、あのテレビに映っていた…」
最悪だった。
経験程度の戦いが望ましかったのに、いきなり、最強の相手を迎えなければならない。
虐殺の現場に残っていたスマホという機械から得られた映像が、テレビで流れていた。
いや、正確には虐殺されたという事実と、危険を知らせるように映像から切り取られた老人の顔写真があったのみだが。
「霧を張るわ。信者達は…」
正直、弥生を守るだけならともかく、信者達の面倒まで見ていられないというのが本音だった。
それに、『攻撃性の霧』によって出来る事ならば、信者達を戦わせたいとすら思っていた。
思っていたのだが、それは口に出来なかった。
「超常神起を妨げる者は排除します。その為には、犠牲者も必要でしょう」
少し不安を覚える。
もしかしたら、今度、自分が壊してしまったのは、弥生なのではないだろうか。
「全ては超常神起の為だけに!」
信者達が一斉に叫び声を上げる。
その瞬間だった、錐状の漆黒が幾つも建物を貫き、信者の大多数を殺し尽くす。
「来たか!」
そう応じながら、弥生が無傷である事に安堵した。
どうやら、『攻撃性の霧』は上手く発動しているらしい。
「こんなに、たった一瞬で…」
弥生が呻くような呟きを漏らしているが、この程度の被害は当たり前だ。
「捉えた!…もう、これで、封殺してやれるわ」
「ネリーさん…?」
霧の中に、何故か、召喚士と召喚された奴が合体している謎の奴らを捉えた。
「霧の中では、信者達は自由に戦えるわ。空だって飛べる、光線だって撃てる、世界だって破壊できる。さあ、始めなさい!」
「お、俺が、何だって、…俺は、何でも出来る!」
信者の1人、若くもなければ、老いているようにも見えない容姿の奴が、空を飛んだ。
そして、飛び続けて、霧の外に出た途端、夢から醒めたように落下して死んだ。
「見たわね?貴方達が強く在れるのは、霧の中だけよ。ただし、霧の中であれば、誰にだって負けない。超常神起の神を守れるのよ、分かったわね?」
「おお、理解したよ!神を守る為に!」
初老の女が飛んだ。
そして、敵と対峙する。
だが、考え無しの行動は、歴戦の雄には簡単にあしらわれ、漆黒に包まれて絶命してしまう。
「主戦派はやっぱり馬鹿だねぇ、馬鹿は死んで当然、頭が良いのはこうさ!」
若い女が光線を放つ。
威力もなければ、速度もなく、精度も悪い。
まあ、当然のように命中せず、漆黒の錐状が馬鹿な女を貫いてしまう。
向こうからはほとんど見えていないだろうに、無駄に自分の居場所を晒してしまう愚行だ。
素人ばかりを率いている事が、こんなにも頭が痛くなるなんて事を久し振りに思い出させられた。
「一斉攻撃しなさいな。貴方達みたいなど素人のカスが、アレを単独で殺せるなんて自惚れは抱かない事ね」
思わず出た本音は、信者達を見事に動揺させてしまう。
高揚していた戦意が萎んでいくのが、手に取るように分かる。
舌打ち、苛立ちが焦燥となって駆け抜ける。
「私が先頭に立ちましょう。超常神起は、私が叶えるのだから!」
「神よ!」
信者達の叫び声が重なり募り、また、馬鹿げた話だが、錐状の漆黒によって無駄な死者を増やしていく。
しかし、そうであったとしても、弥生の言葉は確かに必要であったし、自分では出来ない事だったという自覚もある。
「行きます…」
「神に続け!」
全員が一斉に飛び上がる。
それと同時に弥生の周囲だけ、霧を重くして速度を遅くする。
彼女に死なれては、元も子もない。
戦意を上げてくれさえすれば、後は信者達の仕事だ。
さあ、初戦を始める時が来た…。




