弥生の超常神起
ネリーの要請に従い、信者を集める。
彼女の言っている事は正直、良く分からない部分もあったが、その心根は信じても良いような気がしていた。
そして、信じようと決めた以上、集められるだけの信者を全て集める必要があった。
信者の中にも幾つかの派閥があって、例えば、過激な行動に出ようと唆してくる者達もいれば、私に祈りを捧げていれば満足だという者達もいる。
ただ、彼らに共通しているのは、私を神だと信じ込んでしまっているという誤ちだ。
だから、集めるだけならば、簡単ではあった。
つまり、神が必要としていると言えば、普段はいがみ合っている連中ですらも集まるは集まるのだ。
まあ、集まった上で喧々諤々、凄まじいほどの罵り合いが展開しているのは、あまりに醜悪で見るに堪えないのだが。
「貴方は神にされてしまって、アタシは神になろうとして、でも、信者の質なんてどちらでも同じなのね…」
ネリーは少し寂しそうな様子を見せた。
「この状態では、えっと、『攻撃性の霧』でしたか?それでも、何とも出来ないでしょうか?」
「いえ、大丈夫よ。アタシの信者は心の中ではアタシを疑っていただろうけど、貴方の信者は貴方自体には心酔している。この差は、とても大きいわ」
ホッとしながらも、ネリーに同情を覚えてしまう。
彼女は彼女の世界で、どれだけの苦しみを味わったのだろうか。
その苦しみが、私と一緒に生きていく事で少しでも解消されたら良いのだろうが、果たしてそれもどうなのだろうか。
「これで、概ね集まったかしら?」
「とりあえずは、はい。遠方の人達は、流石に明日以降になってしまうと思いますけど」
「それは、良いわ。まず、アタシの力を見てもらって、その人達にも同じようにするかを決めてもらえば大丈夫」
「分かりました。よろしくお願いしますね、ネリーさん」
「ええ、任せて」
ネリーの全身から、霧が立ち込めてくる。
それがどういう原理なのかは分からないが、私はジッと見つめていた。
「貴方の願いをこの霧に乗せて」
どうやって乗せるのか、勿論、分かるはずがなかった。
だが、分からないのに問い返す気にはなれず、自然と叫んでいた。
「超常神起!常を超えて神を起こす!」
霧が渦巻き、群がり、次の瞬間、一気に拡散する。
信者達はその霧に恐れ慄き、逃げ出そうとした。
だが、霧に触れた瞬間に、茫洋とした顔つきになり、やがて、何物にも揺らがぬ強い意志を込めた眼を持っていく。
「これは…」
「アタシの『攻撃性の霧』は、1つの願いを植え付ける。その願いを発した者の思いが強ければ強いほど、それは強固な縛りを生む。同時に、その願いを発した者に対する思いが強ければ強いほど、それは強固な信念を生む。つまり、神になろうとしてなれなかったアタシの思いは強すぎて、アタシをそこまで信じていなかった人達はそのアンバランスに壊れてしまった。でも、貴方と貴方の信者は違う。これこそ、完璧な関係、完全な繋がり!」
私は自然と涙を流していた。
ついに、この時が来たのだ。
この場にいる誰もが、私と一緒に『超常神起』を始める。
ようやく、始める事が出来るのだ…。