アデロッサと西村
漆黒の翼を生やし、空を飛ぶ。
見下ろした町並みは、西村の命令に従った結果としての部分は荒れ果てていたが、それ以外の部分はとても発展しているように見えた。
「この世界は優れているな」
西村が何かを言おうとしているが、今は黙らせておく。
話し相手に飢えているわけではないからだ。
「さて、まずはどっちに進むか…」
西村が逃げた奴を追い掛けて殺せと、そんな意思を示していたが、あまり興味は湧かない。
あの風使いの少女も、恐らくはどこかの世界で最強だったのかもしれないが、そんなに強そうではなかった。
あれくらいの実力ならば、次に偶然、遭遇した時にでも、ついでのように殺せば良いだろう。
それならば、今は出会わないようにしよう。
逆方向に進む、西村が抗議しているのは滑稽だから正解だったらしい。
「召喚士がいたぞ!…って、えっ、あれ、俺は喋れるのか?」
「許可してやったからな」
それにしても、ほぼ同化しているにも関わらず、こちらに召喚士の顔を確認できないようにしているとは、流石にカミムの曲者振りは侮れない。
「どんな奴だ、語れ」
「嫌だ。これは、俺が自由に出来るらしいな。ザマァ見ろ!」
「では、黙っておけ。ただし、これから、俺が殺す体験は全て、俺だけで味わう。貴様は文字通り、見ているだけだ。覚悟しろよ、渇望する地獄を」
「分かった、言う、言うから、俺にも殺しを楽しませてくれ、俺は殺しを感じたいんだ、頼むよ!」
交渉の価値すらもない。
陥落するのがあまりにも早過ぎる。
「まあ、言うとは言ってもな、別に普通の男だぜ。俺よりも多少は若いか…、50代後半くらいだな。普通の普通、平均の平均だ」
「役に立たない情報だが、嘘を言っていない事は理解した」
「じゃ、じゃあ…!」
「まずは、その召喚士を発見するという功績を上げろ。その報いとして、そいつとそいつに召喚された奴を殺す瞬間を楽しませてやる」
「わ、分かった…」
素直だが、本心ではない。
抑え付けているのを撥ね退けようとして、西村の憎悪が荒れ狂っている。
こいつの殺意にも驚かされるが、負の感情自体があまりにも凄まじすぎる。
よくも、まあ、今までの人生を、狂わずに居られたものだと感心する。
まあ、基本的に愚かな事が幸いしたのだろうか。
「馬鹿の一つ覚え、という事だな」
反論しているが、声には出させない。
それにしても、召喚士が分からなければ、探すのは苦労しそうだった。
住民を皆殺しにしていけば、その内、炙り出されてくるのかもしれないが、そこまで焦る必要もない。
じっくりと楽しもう、時間はたっぷりとあるのだから…。