召喚の本質
「皆様方は賢明でらっしゃる。この私、もしも、この場でサイコロを投げ捨てるような志の低い輩がいた場合、ピンッとやって抹殺してしまおうかなと思っておりました!」
志が低いとは、よく言ったものだと思う。
何らかの方法でサイコロを握らせ、欲望を煽った挙句、それに乗らなかった奴は志が低いとは、自分勝手にも程がある。
まあ、こんな状況に100人もの人間を巻き込んだ時点で、相当な自分勝手ではあるのだろうが。
「ふむふむふむ、では次の質問を受け付けましょう、100人目の貴方」
ここは100人目の夢、つまり、相坂の夢であるから、自分ばかりが質問をさせられなければならないのだろうか。
正直、こういう突発的な事態に対処する能力が低い事は自覚しているし、他の人を指名させてもらいたいと思うが、そんな事を口にしてうっかり抹殺されたりしたら困るので、無い知恵を絞って質問を考える。
「えっと、あ、貴方は誰なんですか?」
失望の溜息が漏れる事はなく、意外に良い質問をしたのかもしれないとホッとした。
「私ですか…。うーん、ふーん、神様って事にしたら、皆さんも納得しやすいんでしょうけどねぇ、控え目な私としてはこの世界の創造主くらいで落ち着けておきましょうか」
神様と世界の創造主は果たして、どちらが控え目な表現なのだろうか。
とにかく、自分の正体を明かす気はないらしい、という事は理解できた。
「さ、次々次ですよ、次の質問をどうぞ!」
「召喚士…になって、世界の支配者…になる、流れというか、ゲームの説明を始めて欲しい」
「あら、あらら、あららら、質問はもういい?いらない、必要ない、まだ、あるでしょうけど、そこは個別に設けますか。よろしい、では、本題に入りましょう!」
一部の視線が痛い。
まだ、質問すべき事があったのだろうか。
とりあえず、個別に質問タイムは設けてくれるようだし、彼らにはそこで自分の質問をぶつけてもらえば良い。
少なくとも、相坂はこれ以上、自分だけが質問させられる状況は御免だった。
「皆様方はこの夢から目覚められた後、サイコロを振ります。左手から、次に右手、出た目によって、人型、或いは獣、もしくはそれ以外、何らかの味方を召喚します。彼ら或いはそれらは、皆様方に大小様々ですが、好意を抱いています。それを徐々に上昇させてって、今、私、ちょっと上手い事を言いましたよね?徐々に上昇、エクセレント!」
こちらに対して、最初から多少なりとも好意的な相手と徐々に情を育んでいき、信頼関係を結ぶという事だろうか。
召喚というのが良く分からないが、方向性は理解できた。
「仲良くなったら戦いが始まりますよ、正面衝突ドーンッとね!」
これが、本題だ。
「召喚士が殺されたら、その召喚士に召喚された存在は消えます。だから、召喚された存在は全力で、出し惜しみなく、召喚士を守るしかないのですよ、これがまた理不尽な事に」
「じゃ、仲良くなる必要ないじゃん」
誰の呟きだったか、相坂には分からなかった。
ただ、同じ事を考えていた。
こちらが死ねば消えてしまうとしたら、仲が悪かろうと、信頼されてなかろうと、召喚された存在はこちらを守る必要がある。
しかし、まあ、現実的に殺し合いをすると提示された事の方が、より重要なのは言うまでもない事のはずなのに、それ自体は自然と受け入れてしまっている自分に対し、かなりの空恐ろしさを感じてしまう…。