酒の席で
「どうじゃ、一杯やらんか?」
死骸地の王と桐島に対し、声を掛ける。
家に到着し、しばらくすると、菜々は眠りに落ちてしまった。
元々の年齢が年齢ではあったし、それに、疲れもあったのだろう。
興奮だけで起きていた部分も、その興奮が醒める事で眠気へと誘われたのだろう。
「アイツは眠ったか?」
「ああ、疲れていたんじゃろうな。それに、お前さんの世界ではどうか知らんが、こっちの世界であの娘の年齢では体験しないような事ばかりを体験したわけじゃからな。いや、年齢云々ではなく、普通に生きておれば、一生、体験しないような事じゃろうが」
桐島に対し、酒を酌んでやる。
死骸地の王は、手酌ですでに始めていた。
「さてと、これからどうするか、じゃが…」
正直、菜々や桐島と戦ったのは、たまたま、彼らが近くに住んでいたからであり、長期的な展望があっての事ではなかった。
話を聞く限り、それは菜々や桐島にしても同じだったろう。
こちらが攻めてきた事で慌てた菜々が、桐島を召喚して戦いに至っただけ。
だから、彼らにしたところで、何も考えていなかったどころか、対処療法的に行動しただけで、これからの事など、何一つとして考えていないのだ。
「結局、アイツの考え次第ではあるが、アイツは負けたくなんてないはずだ」
「その意見は首肯しかねる。あの娘は勝敗になど、まるで興味はないと、我は思うが?」
死骸地の王が発した意見は正しく聞こえるが、桐島が考え無しに発言したとも思えず、彼の意図を思考してみる。
やがて、1つの結論に達した。
「勝利自体が重要ではなく、それによって得られる結果が重要なのじゃな?」
「ああ、その通りだ。アイツは、俺もお前達も死んで欲しくないと思っているだろう。それを叶えるには、勝つしかない。負けてしまえば、俺達が殺される可能性は十二分にあるからな」
「それならば、我にも理解できるぞ」
死骸地の王は満足そうに呟き、酒をグイッとあおった。
「そして、勿論、俺達も常に勝ちたいとは思っている。そうだろう?」
「当然じゃ」
死骸地の王と視線を交わし、同時に頷いた。
「俺とアイツは幸いな事に、軍勢を手に入れた。この世界で生きていくのに必要な知識を持った老人を仲間に加える事が出来た」
そうか、なるほどと思った。
不器用で口下手ながら、桐島はこちらに対する評価を語っているのだ。
だが、そんな必要はない。
すでに、自分も死骸地の王も、桐島を仲間だと思い、菜々に惚れ込んでいるのだから、変に気を遣われなくても、全力でサポートに回ろうという意思があったから…。