不運続きのヴァレリー
使えない主人を持つ事は、この世で一番の不幸だ。
それを実感しながら、今、この見知らぬ世界で生きる羽目になっている。
カミムの甘言に騙された失策は否めない。
ただ、元の世界でも、もう、手詰まり感があった。
あのままではいずれ、新しい世代に最強の座から引き摺り下ろされ、戦場に醜い姿となって死体を転がす羽目になっただろう。
「それよりはマシだった、遥かに…」
「えっ?今、何か言いましたか?」
「言ってないね。無能だけじゃなく、耳まで耄碌しているのかい?」
こちらの言葉に対し、岸田景子と名乗った召喚士はいつも不満気だ。
まあ、わざと煽っているわけではないにしろ、馬鹿にしきっているわけだから仕方が無いのかもしれない。
今までずっと、1人で生きてきた。
歯向かう奴は殺し、生意気な奴も殺し、どうでも良い奴も殺し、全て殺してきた自分が、今さら主人に仕えてどの面下げれば良いのか。
カミムの話に乗ったのは、他に可能性が見出だせなかったからだ。
どんな召喚士になるかは分からなかったが、そこは駄目だった。
だったら、ここからは自分の手で切り拓いていくしかない。
今までと同じ、これからも同じ、まずは戦いに勝つ、それだけだ。
不自然に、風が流れている。
風を操る事が出来ると読むべきか、いや、それは誘導かもしれない。
「ヴァレリー、あそこよ、あの老人が召喚士よ!」
いきなり、景子が叫んだ。
それでは、相手にこちらの事を知らせるようなものだ。
慌てて警告したくなったのだろうが、それにしても伝え方を考えてもらわなければならない。
想像以上の無能さに、どこまで教え込まなければならないのかと思うと、頭を抱えたくなる。
老人が目を見開き、こちらを見やっている。
先手必勝、殺るしかない。
老人が召喚した馬鹿は、どうやら主人から離れているらしかったから。
「行くわよ!走りなさい!あの召喚士を速攻で叩き潰すわよ!」
「えっ、何で…?私は戦わないですよ」
舌打ちしたくなった。
これも、教え込む必要があるのか。
一刻の猶予もならない状況だ。
召喚士だけならば、自分だけでも倒せる。
景子を守るにしても、すぐに戻れば大丈夫だ。
「俺を守れ、アデロッサ!」
舌打ち、助けを呼ばれた。
だが、間髪入れなければ、間合いを侵略して封殺できる。
駆け出そうとして、しかし、足が動かせなかった。
何かに封じられたわけではなく、それは生存本能と呼ぶべき代物であると、直感で理解した。
錐状の漆黒が老人の前まで凄まじい速度で伸びてくる。
あのまま突っ込んでいたら、アレに貫かれて殺されていただろう。
錐状の先が膨張し、やがて、漆黒の球体となる。
「へぇ、厄介じゃない…」
初戦から、ここまでの脅威に遭遇するとは、予想だにしていなかった。
ある意味、最強の敵に出遭ってしまったという可能性すらある。
召喚士に恵まれていないのに、敵にも恵まれていないとは運が悪すぎる。
さて、この不運はどこまで続くのだろうか。
いい加減にして欲しいものだ…。




