100人の召喚士
自分が100人目だと言われた事を思い出す光景が視界に広がっていた。
さっきの真っ白な空間に現れた大きな扉を抜けた先の話だ。
「さてさてさてと、揃いました皆様方、素晴らしい運をお持ちで!」
凶運だろうか、少なくとも幸運ではないと、そんな気がする。
自分以外の恐らく99人をザッと見ると、老若男女、ありとあらゆる感じだが、全て日本人だろうか。
「まず、何から説明しましょうか?何から説明して欲しいですか、100人目の貴方!」
まさか、自分が指名されるなんて思わずにいたので、相坂は予想外に戸惑って口ごもってしまう。
99人の視線、いや、性別不詳の物も合わせれば、100人の視線が向けられていた。
「こ、この、場所は…?」
自分の夢の中においてさえ、こんな感じになってしまうなんて恥ずかしい限りだ。
「良い質問です、及第点です!」
及第点で良かったと安堵してしまうところが、自分の小市民たる所以なのだろう。
「こ、こ、は、皆様の夢です。私はずっと考え続けていたのです、この世界に必要な者、必要な存在、必要な力、必要な光、必要な導き、…必要な支配者を!」
背筋をゾクッとさせる響きが、最後の支配者にはあった。
「この世界には、救世主が必要です。救世主はただ、救世主であるだけでは駄目です。努力が必要です、勤勉さ、それが必要なのです。努力と勤勉性の国民性、日本人を私は選ぶ事にしました」
何十年前の話をしているのだろう。
そんな古き良き時代の法則は、すでに失われて久しい。
相坂自身、日々、真面目に働いてはいるつもりだが、手を抜くところはちゃんと考えてもいる。
それに、子供まで集めてしまっているこの状態では、何十年前でも成立しない話だろう。
「国民性を重視した結果、年齢は問わず、性別も問わず、思想も問わず、学歴職歴なんて気にせず、ランダムに選んでしまったのが貴方達です。100人の夢を繋ぎ、ここが100人目の夢。皆様方は召喚士になるのです!」
周囲がざわつく。
誰もがきっと、その召喚士という言葉を言われてやって来たのだろう。
職場の若者達がやっているスマホのゲームで、そういう職業みたいなのがある事は知っていた。
ただ、それはゲームの中の話であって、現実にはない職業だ。
「両手をお開き下さい!貴方達は今、何をそんなにも固く握っておられるのですか?」
いつの間にか、信じられない事だったが、両手を固く握りしめていた。
恐る恐る、誰もが自分の両手を開き、握っている何かを確かめる。
「サイ…コロ…?」
10面体のサイコロが、両手に1つずつあった。
「それこそが召喚士の証、権利を放棄する者はそれを同時に投げ捨ててしまえば良いのです!いえいえいえ、慌てないでゆっくりと考えてみましょう!それを上手く使えば、皆様方の何れかが世界を支配できるのです。…召喚士になりませんか?」
最後の甘美な響きがなくとも、その場でサイコロを投げ捨てられた者はいなかっただろう。
その神秘的な塊を持つ両手が震え、間違えて落とさぬように、また、両手を固く握りしめていた…。