続く道程
さっきので終わってくれれば良いなと、思っていた。
ただ、まあ、終わってなくても仕方ないとも思う。
自分が口にした通り、カミムはラスボスなのだから。
組織が完全に終焉を迎えた今、自分にとって邪魔なのはカミムだけになった。
だからこそ、カミムはラスボスなのだ。
世界がどうのとお題目にはしたが、実際問題、自分にとって邪魔だからカミムを殺すのだ。
まあ、俺が世界の敵だなんて評する奴をわざわざ生かして放置しておくのもおかしな話ではある。
「俺が召喚王になる」
「はあ…」
割とどうでも良い宣言だった。
自分で始めた事が結局、自分に帰結するというだけだろう。
それなら最初から、自分が召喚王とやらになって、俺を殺しに来れば良かったのだ。
そうすれば、俺を殺せたかもしれない。
まあ、今となっては無理な話だが。
「ジャッター・ゲロッベン…」
老人がピクリと動き、カミムを睨む。
「ビュリック…」
拳に鋼鉄の塊を装着した偉丈夫が、カミムの方に歩み寄る。
「君宮美雨…」
全身に鱗を纏った少女が、そっぽを向く。
「お前達の命はお前達の召喚士と、そして、俺と繋がっている。俺が殺されれば、お前達も死ぬ。さあ、俺を守って戦えよ、早く」
俺は微動だにセず、カミムを見ていた。
ジャッター・ゲロッベンという名の老人が素早く動くが、襟櫛が即座に反応して牽制する。
ビュリックという名の偉丈夫とは谷川が相対し、君宮美雨は子供達が取り囲んだ。
「さて、終わらせるか…」
山田を一瞥すると、彼も心得ているとばかりに頷く。
この世界で最強はかつてあの『最強』だった、今は襟櫛なのかもしれない。
ただ、それは一対一で戦いを始めた場合だ。
こちらが複数を用意して良いなら、いや、複数なんて表現は必要ない、こちらが誰かと手を組んでも良いなら、この世界で最強なのは俺と山田の組み合わせだ。
「存在を消されてしまったら、どんな方法を使っても戻れず、死ねず、永劫に延命させられるなんて不幸な話ですねぇ」
「消えろ、カミム」
徐々に消すなんて危なっかしい真似はしなかった。
山田の『道式論』と俺の『消失』、その組み合わせは召喚王になったとしても、関係がない。
カミムはもう死ねないのだから、召喚士も召喚された奴も関係なく生きていける。
それが分かったからこそ、ジャッター・ゲロッベンも、ビュリックも動きを止める。
元々、動こうともしていなかった君宮美雨が頭を下げた後で、自分の召喚士であろう老人とその場を去った。
他の2人も同様で、頭こそ下げはしなかったものの、それぞれの召喚士を伴ってその場を去った。
彼らがこれからどうするのか、どうなってしまうのか、それは俺の知った事ではない。
それよりも、俺は茜と真剣に向き合わなければならない。
さあ、どうしたものだろうか、色んな意見を聞いてみたいものだ。
山田、谷川と見て、俺は最後に襟櫛を見やる。
「やっぱり、一緒に帰ろう、襟櫛。聞いて欲しい事があるんだ、…いや、相談したい事があるんだ。だからさ、帰ろ」
襟櫛が少しだけ笑い、歩き出した、勿論、こちらに向かって。
山田も少し笑い、谷川は大きく笑い、子供達にも笑顔の花が咲く。
カミムとは違った意味で、俺達も死ねない身を抱えて生き続けるのだ。
さあ、これからの未来はどうなるんだろうか。
そんな事を考えながら、俺は茜に向かって慣れない笑みを浮かべた…。