終わりの始まり
どことなく、薄気味悪さを感じていた。
確かに、カズトがいて、山田がいて、谷川がいて、自分がいる。
この面子で1人を相手にしていて、負ける要素なんて欠片も見いだせなかった。
それなのに何故だろうか、薄気味悪さを感じていたのだ。
次の瞬間、カズトに踏みつけられ、谷川に顔面を殴り潰されたカミムの哄笑が響き渡る。
彼は今、どうやって笑っているのだろうか。
「世界の敵…」
やがて、笑い声が止まり、一言、そう呟きが漏れた。
「初めて会った時、俺はお前がいつか世界を滅ぼすと分かった…」
自分と山田が同時にカズトを見やる。
カズトと谷川はカミムから視線を外さない。
「だから、俺は考えた。この世界を救う為に、俺に何が出来るだろうかと…」
「ほざくな、消えてろ」
カミムの姿が消失する。
これを見るといつも、少しだけ、ほんの少しだけだったが、背筋に悪寒が走る。
俺は速いだけで、山田は無理矢理に世界を捻じ曲げてしまうだけで、谷川は蛮勇を誇るだけで、それだけなのに、どうしてカズトだけは、誰も彼も、何もかもを消し去ってしまえるのだろうか。
かつて、『最強』もジョージも、カズトには一目置いていた。
「終わったな。谷川、帰ろうか、山田氏も、健一も行こう。襟櫛はどうする?」
「俺は…」
残っている連中を見る。
それぞれの世界で最強を謳われていた連中だ。
戦ってみたいという気持ちはあったが、カミムを倒せなかった時点でそれを下回る彼らを倒したとして、何だと言うのだろうか。
「まあ、戻りたくなったら、いつでも戻ってきなよ。別に今生の別れってわけでもないしさ、また会おう」
カズトが軽く手を振ると、彼の背後に灰色が広がっていく。
彼の元に、山田と谷川と健一が歩み寄って行く。
4人を見つめながら、俺は何と言うべきなのか、まだ迷っていた。
「俺も…」
「えっ?」
意地を張るのはやめて、素直に戻ろうと思った。
だが、その時だった。
「世界の敵、お前を逃したりしないぞ」
弾かれたように、俺は後方を見やる。
そこに、カミムの姿を見出して、驚愕する。
カズトによる消失は、どこか遠くに飛ばしてしまうなんて生易しいものではない。
文字通り、本当に消えてしまうのだ。
それなのに、カミムはそこにいた。
「全員、出てこい。やはり、ラスボスってのは、そう簡単に倒せないように出来てやがるらしい」
カズトの背後に広がっていた灰色から、子供達が次々と飛び出してくる。
健一との再会を喜んでいる者もいるが、そんなのは少数だ。
子供達にしたところで、年相応の無垢な考えを持ち合わせているわけではない。
かつての組織を上回るほどの戦力が、ここには集っている。
そうだ、世界の敵を殺す為に…。