世界の敵が集い
「襟櫛!?」
カズトに止められていた事も忘れ、咄嗟に飛び出してしまっていた。
それだけの衝撃が、その光景にはあった。
あの襟櫛がカミムによって無造作に首を掴まれてしまったのだ。
まさか、避けられなかったなんて思わない。
ただ、作戦としては迂闊すぎる。
襟櫛は振り返らない。
ただ、もがくように、両手に握った日本刀を振り回し、カミムの全身を矢鱈滅多ら切りまくっている。
それでも、首を掴んだ手は離れず、カミムは薄ら笑いを浮かべている。
もう分かっている、あの襟櫛が避けられなかったのだ。
「…空気を掴もうなんて、無謀も甚だしいですねぇ」
カミムの手は空気を掴むように握り締められ、拘束を解かれた襟櫛が一気に距離を開ける。
「これは驚きだ、世界の敵がもう1匹現れやがったか。言葉を紡ぎ、世界を改変する、便利な力だ」
いきなり、『道式論』を見破られてしまった。
灰色の世界に入ってやり過ごそうかとも考えたが、自分の勝手で飛び出しておきながら、カズトや他の者達を巻き込んでしまう危険性は冒せなかった。
そして、その逡巡こそが、誤りだった。
一気に間合いを侵略され、口を塞がれた。
何も喋れない、何も言えない。
「喋れなくても、さっきのは出来るのか?」
口を塞がれたら、答えようがない。
ジッとカミムを見つめる、彼の意識をこちらに集中させる。
「出来なくても関係ないさ、お前はここで死ね」
襟櫛が二振りの日本刀をどちらも使って、カミムの首を斬り飛ばそうとした。
だが、カミムは余っていた手でそれを無造作に掴み、嗤う。
「お前達だけでは、世界の敵に相応しくないな。奴を呼べ、奴を殺さなくては世界を救えない」
一瞬、襟櫛と視線が交錯する。
当然、彼も分かっているのだ。
「ぶっ飛べ!!!!」
突然、カミムの眼前に出現した灰色から伸びてきた握り拳が、彼の顔面を捉えてそのまま地面に叩き付ける。
口を掴まれたままの自分と、日本刀を掴まれたままの襟櫛も巻き添えで吹っ飛んでしまうが、それでも、仰向けに転がったカミムの上に立つ姿には、何故か、笑いが起きてしまう。
「やあ、カミム、久し振り」
「カズ…」
名前すらも最後まで呼ばせまいと、『破天荒快男児』を使った谷川の拳が再び、カミムの顔面に突き刺さる。
流石に、それで自分の口を塞いでいた手も、日本刀を掴んでいた手も力が緩んで、拘束から脱する事が出来た。
「悪いな、世界を救いに来た」
カズトが笑うと、自分も襟櫛も谷川も自然と笑いが溢れる。
さあ、ちょっとだけ頑張って、世界を救ってみるとしよう…。