戦術変更
「…気に入らないな」
ずっと、劣勢続きだった。
何故、召喚王になろうとしている自分が、今まさに殺されるかもしれないという場面に遭遇しなければならないのだろうか。
召喚した糸雪の実力は本物だった。
そこに、疑いはない。
勿論、俺にしたところで、召喚士の中ではトップクラスのスペックを誇るだろう。
それなのに、負けそうな事態に追い込まれているのだ。
気に入らない、気に入らない、虫酸が走る。
「糸雪、敵は殺せそうか?」
分かっていて、敢えて聞いた。
糸雪が僅かに小首を傾げる。
多分、彼が単独で行動していたなら、それも可能だったのだろう。
お互いの実力が抜きん出ている自負があったから、身を隠して見守るなんていう消極性を排除してしまったのが、今は悔やまれる。
何とかして、自分が戦場から離れる事が出来れば、糸雪は本来の実力で敵を圧倒し、見事に勝利を収められるのだ。
だが、現実はそう甘くない。
敵が狙っているのはむしろ俺であり、距離を取って行動したりしたら、全力で俺を殺しに掛かるだろう。
それが分かっているからこそ、もう一方のペアもずっと一緒にいるのだ。
召喚士の少年と、戦う老人のペアを見ながら、思考を巡らせる。
彼らと手を組む事は出来ないだろうか。
現状、あの巨大少女がお互いの脅威である認識は噛み合っているはずだ。
当然、お互いに注意を相手に向けさせ、自分達は戦場を脱したいと考えている。
それなのに、あの少女はどちらにも完璧に当分に、力を傾けている。
チャンスを窺って背を向けた瞬間にでも、巨大な弾丸がこちらをミンチにしてしまうだろう。
それならば、向こうのペアと手を組み、とりあえずは巨大少女を退けるというのが、悪くない選択肢ではあるはずだ。
ただ、向こうがこちらを信用するか、そして、こちらが向こうから裏切られないか、その可能性はあまりにも高すぎて、手を組むという選択肢を無意識に排除したくなってしまう。
「糸雪、少しずつで構わないから、あっちのペアに接近できないか?」
「分かりました。それくらいはやらせてもらいますよ」
糸雪が俺を庇いながら、ジリジリと動き出す。
その瞬間だった、突如、少女が攻撃を止めたのだ。
肩に乗せている召喚士の男が喚いているが、無視して俺達を睥睨する。
「どういうつもりだ?」
「敵が分散しているよりも、集中している方が楽なのかもしれませんね」
デカブツの思考は良く分からない。
とにかく、大人しくなってくれたのは有難い。
「惨めな姿ですね…」
特に意味もなかったのだろうが、不意に糸雪が発した言葉に赤面する思いだった。
俺は召喚王になるのだ。
その俺がこんな情けない姿を他人に見せても良いのだろうか。
その葛藤が俺の足を止めてしまった時、変化は唐突だった。
四方八方から銃弾が飛んで来る。
当たり前のように糸雪が全て弾き落としていってくれるが、それでも銃弾の雨は止まない。
向こうのペアも同じような状態に陥っていて、そちらを見やれば状況は分かる。
合体する前に湧いていた少女が再び、その姿を出現させて銃火器を乱射していた。
巨大な少女は屹立したままで、こちらを見ている。
「その姿を維持しながら、さっきと同じ芸当も出来やがるのかよ、畜生が!」
俺の叫び声に応じたわけではないだろうが、巨大少女が攻撃を再開する。
水平方向と上方、それは流石に糸雪も対処できなかった。
舌打ちを響かせるが、飛び交う銃声に掻き消されて、俺の耳にすらも届かず…。