平行線の異形
「あらら、潰れちゃったか、まぁ、しゃーない」
世界を救いたくて救えなかった嘉島那岐を、召喚士に仕立て上げるのは我ながら愉快な思い付きだった。
しかし、破綻するのが早すぎた。
破綻する原因を作った君宮美雨には、少しばかりのお仕置きが必要だろう。
「ジャッタードライヴ!」
「星壊!」
後ろからはジャッター・ゲロッベンが、前からはビュリックが、それぞれの最強を放ってくる。
まあ、特段の効果は無かったわけだが。
「君達はさ、召喚できる中では目玉だったんだよ。もっと頑張ってくれよ、人選ミスしたみたいで召喚士の皆に申し訳ないとかは思わないんだけどね」
多分、理解できていないのだろう。
彼らは彼らなりの全力でこちらを殺そうとしているわけだが、彼らが本来的な全力を出せているわけではない。
召喚する過程で、何割かは力を削ぎ落としている上に、こちらは彼らを観察した上で防御を展開している。
実際、彼らが本気の全力で暴れたりしたら、この世界はすぐに崩壊してしまう。
それでは、こちらの目的が果たせないのだ。
「カミム、喰らえ!」
この声が響いた時だけ、本気で回避しなければならない。
まだ、相手は子供だったから、無駄に声を出してから攻撃してくれているから、何とか回避できていた。
コイツだけはまともに喰らって平然としていられるわけがない。
よりにもよって、あの組織の『最強』の特異性をこんなガキに持たせてやがるとは、洒落になっていない事態だった。
それにしても、敵の頭数が増えすぎている気がする。
嘉島那岐を殺したが、まだ多い。
お仕置きだ、君宮美雨は殺しておこう。
「戻るんじゃ、美雨…」
こちらが殺す前に聞こえた呼び掛けによって、君宮美雨が弾かれたように距離を取ってしまう。
まあ、その程度の間合いは余裕で殺せるが、少しばかりの興味と共に声の主を見やる。
新村紀人、そんな名前の老人だった。
君宮美雨を召喚した奴だ。
「カミムよ、問うても良いか?」
「勿論。召喚士は大事な大事な玩具だ、それくらいは許そう」
「さっきから見ておったが、その老人、そっちの男、さっき殺した少女、美雨の攻撃は平然と受けるのに、どうしてその少年の攻撃は避けるんじゃ?」
ただ見ていただけの凡庸な老人が、見事なまでに核心を突いた。
それは恐らく、第三者的な視点からの気付きだったのだろう。
「野暮だねぇ、ったくさ…」
転がっていた石ころを無造作に蹴った。
それだけで、新村紀人の頭を吹っ飛ばしてやるつもりだった。
そう、そのつもりだったのに、石ころは見事なまでに新村紀人の眼前で弾き落とされてしまった。
そして、顕現する。
戦装束に二振りの日本刀、それがその異形の姿だった。
「一応、聞いてやろうか、名乗れば?」
「色々と考えた。考えた結果、俺は世界最強で構わないと思う。…ああ、聞いたのは名前だったか?襟櫛だ、覚える必要はない。どうせ、すぐに死ぬんだから」
「陳腐な台詞。億万回は聞かされたな、そんなのは」
「笑えよ。もう聞けなくなるんだからな」
「なあ、襟櫛よぉ、手を組んでみないか?」
「繋いでた手を離してきたばかりだ。暫く、手ぶらで居たいんだ」
どれだけ言葉を交わそうと、平行線は続くだろう。
どちらかが死ぬまで、その平行線に終わりはない。
まあ、そういう事ならば、平行線はさっさと終わりにしてしまおうか…。