本来の私
誰も彼もが、カミムを召喚士として認識していた。
そして、私がカミムに召喚された存在、という扱いになっている。
だが、間違っている。
私こそが、カミムを召喚したのだ。
右手のサイコロも、左手のサイコロも、出た数字は0だった。
その時の事を思い出そうとして、愕然とする。
本当に、そんな事があっただろうか?
自分はサイコロなんて、本当に持たされていたのか?
この世界の事を考えてみる、今までずっと暮らしてきた世界だ。
それなのに、何一つとしてまともに分かっていない事に途惑いを隠せない。
「私は…」
もしも、カミムが召喚士で、私が召喚された存在ならば、今、この場で敵と戦っているのは私になっているはずだ。
それが、召喚士と召喚された存在の役割分担なのだから。
だから、そう、だからこそ、私が召喚士のはずなのだ。
でも、納得できない自分もいる。
だって、私もカミムと戦えてしまえるのだ。
他の敵達と同様に、カミムと戦える。
そんな召喚士が存在するのだろうか。
召喚士が自分で戦えるのだとすれば、誰も召喚する必要なんてなく、自分で戦えば良いのだ。
巨大な斧を軽く振ってみる。
やはり、自分は召喚士なんかではないのだろう。
召喚されて、記憶を操作された、カミムによって。
そうだとして、重要な事がある。
自分はどんな戦い方を本来はするのだろうか、という事。
カミムに向かって斧を投じる。
それを無造作に払い除けて、カミムがこちらを見やる。
「どうした、嘉島那岐?」
「私の利用価値って、まだあるの?」
「もう用済みだな、嘉島那岐。踊らなくなった道化に意味は無いよ、嘉島那岐…ちゃん?」
「私が貴方を殺せないって、そう言ったわよね?」
沸騰し、今にも爆発しそうな感情を押し殺し、カミムに相対する。
「現実に殺せていないんだよ、嘉島那岐ちゃん」
「でも、本当は私の事、怖いんでしょ?だって、利用価値が無くなった私を未だに解放せず、貴方は記憶を縛ったままなんだもの。本来の私を相手にしたら勝てないって、本能的に理解してるって事よね?」
安い挑発だ、普通はこんなのに乗る奴なんていない。
「忘れてた。本来の嘉島那岐ちゃんなんて、今の嘉島那岐ちゃんと別に何も変わんないよ、嘉島那岐ちゃんは嘉島那岐ちゃんで嘉島那岐ちゃんに過ぎない嘉島那岐ちゃんなんだよ」
突然、カミムが眼前に達していて、慌てて距離を開けようとした私を嘲笑うかのように、唇を奪ってくる。
「王子様のキスだ、お目覚めは如何かな?」
記憶が奔流のように押し寄せ、私は私、嘉島那岐は嘉島那岐へと至る。
あの時、私を召喚士たカミムが突如、私の唇を奪ったのだ。
それを思い出し、先程の爆発しそうな感情と相噛合い、凄まじい反応となって生じる。
「カミムゥゥーーー!!!!」
一瞬。
それはイメージ、私は私の最高速を持って、カミムの顔面を掴んでいた。
そのはずだった。
「本来とか何言ってんのさ、やっぱ勝てないじゃん、嘉島那岐ちゃん?」
カミムは私がさっき投げた斧を返してくれた。
ただ、その返し方はとても乱暴で、受け止めた私は真っ暗になって…。