決着
向かって来る兵士、飛び掛かって来る戦士、斬り付けて来る騎士、その全てが刃を届かせる前に燃え尽きていく。
桐島は動かず、ただ、血を流し続けていた。
その血が火となり、敵を燃やし続けているのだとしても、痛そうだからという理由だけで、菜々はもう止めて欲しかった。
桐島が止めるという事は、自分が殺されてしまう事だと分かっていても、それでも、止めて欲しかった。
自分が殺されてしまうのは嫌だったが、それよりも、桐島が痛い思いをしている事の方が菜々は嫌だった。
でも、口には出せない。
ただ、自分が偶然に召喚してしまったというだけなのに、桐島は痛い思いをしてまで自分を守ってくれている。
そんな彼の思いを無視して、自分が痛そうに見えるから止めて欲しいだなんて言えない。
「大丈夫だ、安心しろ。もうすぐ、終わる」
「はい…」
「残念だが、まだ終わらぬ。我が従僕、我が眷属、我が同胞、我が師、ここに全て集いて死骸地を行なえ!」
先程よりも多く、遥かに多く、敵が増えてしまう。
もう、無理だ。
このまま続けたら、向こうが増やせなくなる前に、桐島が倒れてしまう。
「いや、終わりだ、残念ながらな」
「そうか、理解した。我が勝利によって、この戦いが終わるという意味か。血が尽きたな、孺子?」
「いや、そうじゃない。準備が終わっただけだ」
「準備?負けを覚悟する準備か?」
「いや、勝利を確信する準備だ」
「戯言の時間は終わりだ。葬り去れ、死骸地よ…」
増えた敵の全てが、そして、増やしたあの大きな剣を持つ騎士も、一斉に襲い掛かって来る。
それに対して、桐島が初めて動きを見せた。
ただ、それは桐島が大きく動いたというよりも、彼の足下に出来ていた血溜りが動いたという印象が強い。
「焼き払え、灼き尽くせ、燃し殺せ、焔剣!」
血溜りが空を突くように伸び上がり、刃の形になった。
それが真っ直ぐ地面を叩くと同時、無数の敵が焼き払われる。
次いで、火が燃え移っていき、全てを無かったかのように殺し尽くしていく。
残されたのは、あの大きな剣の騎士と、その召喚士である老人だけ。
刃が手に収まるようなサイズに縮まり、桐島が握った時に長剣の形となる。
「貴様ァ、よくもやってくれたな!」
「見苦しいぞ、敗北を認めろ」
「我は我があれば、勝利を掴める。その剣で、我が剣を防ぎ、我を殺せるか?」
「焔弾は、焔剣を作るまでの時間稼ぎ。それなら、この焔剣は何に対する為の時間稼ぎだと思う?」
「まさか、貴様…」
騎士が慌てて、老人を見やる。
桐島もゆっくりと、菜々も追い掛けるように老人を見た。
老人の周囲を焔弾が幾つも飛び交っていた。
「焔弾は焔剣の為に、焔剣は焔弾の為に。分かるか?」
「我の敗北か。まさか、この世界における初戦が、最後になるとは想像すらもしていなかった」
「死骸地の王よ、ワシらは負けてしまったのか、こんなにも早く…」
「我が負けた。貴様は負けていないかもしれないが、我が足を引っ張った」
「お前さんの負けは、ワシの負けじゃよ。しかし、まあ、こんなにも早く終わってしまうとは、何とも言えん結末じゃな」
「あ、あの…」
騎士と老人が、同時に菜々を見やる。
今、この場における支配権は、菜々にある。
彼女自身は桐島にあると思っていたが、それ自体は騎士と老人には関係ない。
「…わたしの、仲間になってもらえませんか?」
元々、殺すつもりなんて無かった。
「お前さんは、どう思う?」
老人が騎士に問い掛けた。
「我に異存はない。貴様の決定に従うのみだ」
「分かった。誰かの下になったとしても、一花咲かせる機会はあろうというものじゃ。娘さん、ワシらはお前さんに従おう」
その瞬間、菜々は自分が110になったと分かった。
そして、老人、榊周一郎を仲間にし、騎士、死骸地の王が仲間になったと…。