勇気の在処
視界の中に、信じられない姿が映っていた。
一緒にいる誰もが、その異形から目を離せずにいた。
「これに、…この中に、…あそこに、私達は行くんでしょうか?」
誰も、何も言わなかったので、私は仕方なく言葉を発したのだ。
そして、その言葉を聞いて、誰もが顔を見合わせるに至った。
「あそこを見ろ、あのデカブツと戦っている奴らがいる」
桐島が指差した先に、なるほど、確かに戦っている姿が見えた。
まあ、戦っているというよりは、狙われている状態からそれぞれの召喚士を守っているだけのような気もするが。
「正直、あそこに割って入るなど、論外じゃろう。お嬢ちゃんの考え方からすれば、基本路線としては仲間に加えていく事になるんじゃろうが、あの場面で説得なんてしていたら、それこそ踏み潰されてお終いじゃ」
「桐島さん…」
ナナが何かを訴えかけるように、桐島さんを見つめる。
「基本的にはお前が決めるべきだと思うが、俺も踏み潰されるのは御免だ」
「私は…」
まだ迷っているかのように、ナナは言葉を濁した。
もしも、彼女が決めたのならば、私達は全員、あの中に飛び込まなくてはならない。
反対しようかと口を開きかけたところで、カナに制せられる。
「お前が背負っているのは、ここにいる全員の命だ。仲間を危険に晒すくらいなら、逃げるのも勇気だ」
「分かりました。あそこに入って行っても、みんなが危険なだけです。急いでこの場を離れましょう」
背を向けて、ナナが先頭に立って歩き出す。
それに一同が続く中、桐島さんだけが戦場を見つめたままで立ち止まっている事に気付いた。
「桐島さん、みんな行ってしまいますよ?」
「あぁ?」
そう呟いて振り返った時、桐島さんの両眼に灯った鈍い光を私は忘れる事が出来るだろうか。
それは、多分、本当は殺したかったって、そう主張しているようだったから…。