殺戮常軌
カミムを殺せる。
それは、望外の喜びだった。
初めて奴と出会った時、勿論、ワシはそれまでの全てと同じように、当然、当たり前のように殺しに掛かった。
だが、奴を殺す事は出来なかった。
殺せないほど強かった、というわけではない。
そうではないと思うが、殺せなかった。
奴からの提案が奴を殺す以上に魅力的に感じたから、最終的に奴を殺さなかったというのはある。
「奴はワシを欺きおった」
「えっ?」
心の中で考えていた事を、どうやら口にしてしまっていたようだった。
「この世界に来れば、ワシをも凌駕する敵に出遭わせてやると、奴はそうほざきおったのだ。だが、現実はどうだ?まだ、殺したのは5匹に過ぎんが、正直、手に余るような存在には巡り会えておらん。その埋め合わせを、奴は奴自身でするべきじゃろうて」
「でも、カミムを殺してしまって大丈夫なのかしら?全てを仕組んだ彼が死んだら、召喚王になるというシステム自体を保てなくなる可能性もあるわ」
水を差された気分になる。
ただ、寧々の不安も理解できる。
最悪、召喚王などというお飾りは消え去り、ワシらのような存在も全て元の世界に戻される可能性もある。
しかし、まあ、それでも構わないだろう。
元に戻るというだけだ。
別に、何が何でも、ワシは寧々を召喚王にしてやりたいと思っているわけではない。
ただ、それを素直に伝えても、この場では無意味だ。
実際、寧々がどれだけ、召喚王などという器に興味を抱いているか怪しくはあったが、それでも馬鹿正直に伝えても意味がない。
「案ずるな。奴の意味合いは所詮、舞台を誂える初期設定に過ぎん。今更、奴が死んだくらいで、全てを巻き戻してしまえるほど、奴の力が凄まじいとはとても思えんさ」
「そう、…なのね」
ワシが初見では殺せなかったくらいには、カミムは強いのだろう。
ただ、強さに実力の多くを捧げているなら、付属する部分にまで手が回らないのも確かだ。
案外、召喚システム自体が奴の仕掛けられる全てで、召喚王などというのは虚言を弄しただけに過ぎないという可能性もある。
考えてみれば、自分以外の召喚士99人を殺して点数が1万に達したところで、それが何だと言うのだ。
1万点になって召喚王か、改めて分析してみれば、笑わせてくれるわ。
「ガキのお遊びに乗ってやった、それだけの話じゃろう」
「ガキって、誰…?」
「気にするな」
嗚呼、早く殺したい。
カミムを殺してしまえば、このシステムが終わるかもしれない。
そうすれば、今度は寧々を殺してしまおう。
そうして、この世界の全てを殺し尽くすのだ。
愉悦。
愉快。
やはり、殺しは全てを凌駕し、ワシを捉えて離さない、唯一無二の…。