殺戮の権化
ジャッター・ゲロッベンの強さは異常だった。
召喚してから1時間も経過しない内に、すでに点数は600点に達していた。
5人の召喚士をすでに殺してしまったのだ。
召喚士の数は100人。
まともに戦っていけば、1年くらいは優に戦い続けるのだろうと考えていた。
だが、恐らく、そうはならないだろう。
このペースは維持されないにしても、それぞれの場所で戦いが展開されている以上、決着は案外、早いはずだ。
「おい、寧々、疲れたか?」
疲れていないと言えば、嘘になる。
これだけの死体を目の当たりにした事はない。
しかし、それを素直に認めるのは嫌だった。
「別に。私は何もしてないじゃない」
「慣れない場面に遭遇して心が萎縮する、それは人間の本能だと思うがな」
一瞬、その優しさに心が傾きそうになる。
だが、思い出してみろ、眼前にいるのは人質になるリスクが有るなら親を殺せと言った奴だ。
「大丈夫よ。この程度で立ち止まっていたりしたら、失望しちゃうでしょ?」
「いや、失望はしないな。5人毎に立ち止まるなら、合計20回くらいだ。それくらいは許容してやる」
そうなのだ、コイツはこういう奴だ。
召喚した者と召喚された者、そこに主従の関係が出来上がるかどうか、それはその当人同士の問題だ。
そして、ジャッター・ゲロッベンと私の間は対等じゃなく、彼の中では見せかけの主従関係で、立場は自分の方が遥かに上なはずだ。
優しさなどは介在せず、憐れみや蔑みがそこにはあった。
「立ち止まらないならば、行くか。次こそはもう少し、まともに戦える敵だと幸運だな」
「そんな事を言われてもね。敵を選んできたのは私じゃないわ」
「カミムか。奴めには騙されたな、ワシと対等に戦える存在を用意しておくと約束しおったくせに…」
意外に愚痴っぽい老人だった。
その時、頭の中に1つの顔が浮かぶ。
意外性を禁じ得ないその顔に、私はジャッター・ゲロッベンを驚かせる事が出来るとほくそ笑んだ。
「あら?見つけたわよ」
「召喚士か?」
「いえ、カミムを」
「…カミムの顔が浮かんだのか?」
ジャッター・ゲロッベンの視線が、ゾクッとするほど怖気が走る。
「え、ええ…」
「奴めも召喚士じゃったか…。カカッ、殺し甲斐のある奴を見つけてくれたもんじゃ」
ジャッター・ゲロッベンに伝えたのが正解だったのか、或いは不正解だったのか。
そして、そもそも、カミムはいつから召喚士なのか。
最も気になるのは、カミムを殺してしまっても大丈夫なのか、その一点だった…。