口を滑らして
雫が負けた。
それで、俺の全てが終わったわけだ。
召喚王になんてなりたくなかった。
だが、誰かに従うなんて、もっと嫌だった。
「テメェは今、何を考えてるよ?」
負けた雫が負けたくせに偉そうだ。
「誰かに従うくらいなら死んだ方がマシだよって、そんな事だよ」
「じゃあ、死ぬか?」
極端な奴だ。
思えば、こいつが勝てもしないのに、戦いを選択したのが悪いのだ。
「俺が死んだら、雫も死ぬんだぜ?」
「まあ、仕方ねぇよ。テメェを召喚王にする為にやって来た挙句、望んでもいねぇ境遇に陥れちまったんだ、その末路がテメェと心中するって事ならよぉ、悪くねぇって話なんだろうさ」
可愛い女の子に言われても大して嬉しくない台詞を、可愛くもない男が吐き捨てるように言うのだから堪ったものではない。
「なあ、何で負けちまったんだよ?」
「強かった、そんだけだ」
潔い態度も、時と場合によって苛立つだけだ。
「最強の敵だって言って、俺が止めたのに挑んだくせに…」
「なあ、お互いの為にもよぉ、整理しとこうぜ?」
「整理って何だよ、雫が負けちまわなければさ、俺がこんな目に遭う事も無かったんだ」
「それだよ、それ。結局さ、テメェはこのまま惨めに生き続けんのか、さっさと死んじまって楽になりたいか、どっちだよ?」
急激に頭が沸騰した。
「惨めに生き続けてんのは雫、お前だろうよ!俺まで巻き込みやがって、このクソ野郎が、あぁ?死にたいに決まってんだろ、こんな人生なんざ、もう終わりにしてくれって話だ!まあ、お前は俺が死んだら巻き添えで殺されちまうんだから、何のかんの偉そうに吠えたって結局は俺を宥めすかして生き続けるしかねぇんだろうがなぁ!」
「悪かったな、テメェには迷惑を掛けた」
素直に謝る雫に、俺は意外な思いを禁じ得なかった。
もしかしたら、悪くないのかもしれない。
俺は召喚王になんて絶対になりたくなかったが、いずれは召喚王になるか、誰かに従うか、その2択を迫られていただろう。
その時になって誰かに従うよりも、今、この時、この瞬間に、誰かに従って、雫と上手く折り合って、そういうので満足すべきなのかもしれない。
「なあ、雫…」
雫が静かに剣を抜く。
いや、違うんだよ、雫。
俺は確かに死にたいって言ったさ、でも、違うんだ。
これからは一緒に生きて、それで。
そこまで思考し、口に出そうとした瞬間、全てが終わった…。