逆襲開始
混乱の絶頂にあった、そう言っても構わないだろうか。
茜の突然の告白から、俺は動揺していた。
そして、続けざまに起こる事態に、正直、参ってしまっていた。
「とりあえず、整理するぞ。健一がいきなり消えたと、それは恐らく、カミムの仕業だ。この灰色の世界から誰かを消すって言うか、まあ、奴の表現的には召喚したんだろうが、そんな事を出来るのはカミムだけだ」
ここは断言しても構わないだろう、俺が動揺を見せない方が子供達は安心するだろうから。
まあ、推測も間違ってはいないはずだ。
いや、本音で言えば、他に可能性が思いつかないだけなのだが。
「そして、襟櫛の離脱か…」
山田を一瞥するが、彼は悪びれた様子を見せない。
納得済みという事なのだろう。
それならば、それで仕方がない。
遅かれ早かれ、襟櫛の離脱は避けられなかった。
整理してしまえば、話は単純だ。
「俺達がやるべき事は何も変わらない。カミムを捉えて、世界の元凶を始末する」
茜と唯が何かを言いたそうにしているのを見やり、彼女達に対する配慮が必要だと思う。
多分、これは茜の告白がなければ、それ以前の自分では気付けなかった事だろう。
成長なのか、弱点を持ってしまったのかは判断が難しいところだったが。
「健一は大丈夫さ。アイツの特異性は、カミムなんかには負けないよ」
「カズト氏がそこまで断言するとは、彼が持っている特異性はよっぽど特別なものなんですかねぇ?」
そう問い掛けてくれた山田に感謝したい。
谷川も、茜や唯、時雨や郁人にしても、健一が持つ特異性の本質を理解できていないのだ。
襟櫛がどうしたって意識し、俺が内心では羨ましくて仕方なかったほどの代物だ。
「健一の特異性は、『最強』だ」
「あぁ、それは…」
山田が上手く言葉を紡げなくなってしまうほど、それは特別なのだ。
谷川の『破天荒快男児』にしても、インパクトはかなり大きいだろう。
ただ、それでも、『最強』には敵わない。
別格なのだ、俺達にとっての『最強』とは。
「そうですか、えぇ、そうですか…」
「山田氏はあの男が使わなかったとして、ただそれだけであの特異性に対処できる自信はあるかい?」
恐らく、俺や山田の反則にも思われる特異性に真っ向から挑んで叩き潰す事が出来る唯一無二の特異性が、『最強』だ。
「えぇ、えぇ、無理…とは言いませんが、難しいでしょうねぇ」
山田とのやり取りを見て、茜や唯も安心したようだった。
さあ、安心させたところで、実際はどうなのだろうか。
健一は『最強』を扱うが、勿論、あの『最強』には程遠い。
「じゃあ、再編するぞ。時雨、『ビルメン』を使って健一の場所を特定しろ。判明したら、郁人の『加速』で急行する。全員だ、全員で向かうぞ。今回は仲間を救う為の戦いだ。誰かが殺されたら、すぐに別の誰かが灰色に引きずり込め。俺達は死人の軍勢だ、勝つまで死に続けろ」
茜や唯に戦えない子供達を任せる事を考えなくはなかったが、彼女達も納得しないだろうし、逆にカミムが人質にしてしまうリスクもあった。
それならば、痛みを負うリスクを取るしかない。
こんな生き方をしている限り、一度も痛みを負わずに生き続ける事なんて不可能なのだ。
まあ、痛みを負わせる気なんて、当然、持ち合わせてもいなかったのだが…。