生じる迷いと苦悩
「で、だ…」
杏奈と一緒に空を飛んでみたものの、実際問題、召喚士として戦うには何をしたら良いのか、それが相坂には良く分からなかった。
また、奴を呼び出して問い掛けるしか無いのだろうか。
正直、答えを与えられたかも分からず、煙に巻かれるのがオチであると予想できてしまうのが虚しい。
そういえば、何故か、いつの間にか理解している他の召喚士のいる方角が分かるという方法を試してみようかと考えて、そして、考えた瞬間にあっちだなと視線を向けた先には笑顔の杏奈がいて、慌てて視線を逸らした。
「どうしました、和吉さん?」
「あっ、いや、あの、そっちの方向に、一番近くの召喚士がいるみたいで…」
「こっち、ですか…。それで、どうしますか?戦いに行きますか?」
「いや、…それはまだ」
正直、奴が言っていた仲良くなる期間が今なわけだろうし、まるで仲良くなっていないというか、正直、協力関係にある他人同士という意味合いすらも怪しいので、戦いに行ったりしたら負けてしまう可能性が高い。
しかし、戦いに行かないとして、仲良くなるのを優先するわけだが、具体的に何をしたら良いのかが思いつかない。
こちらの答えを待っているように、ジッと見つめてきている杏奈の視線を避けるように、相坂はテレビのリモコンを手に取った。
特に意味もなく、興味を逸らしたいという一心だけでテレビをつける。
そして、衝撃の映像を見た。
「何だ、これは…?」
黒焦げになった町が映っていた。
いや、正確には町の一部だ。
夥しい数の焼死体があるらしく、その場所は映せないのだ。
「きっと、召喚士同士の戦いです」
「え…」
怖気が走った。
殺し合いをするのだ、言葉では理解していても、この映像は流石に衝撃的だった。
「こんな…、でも、こんな事、…こんな目に遭うかもしれないのに、僕は杏奈さんを戦わせられない…」
「大丈夫ですよ、私、強いですから。この世界ではどうか分かりませんが、私の世界では空を制する者こそが最強なんです。そして、風を自在に操る事が出来る私は、それを名乗る資格があります。だから、安心して下さい」
笑顔で言った。
その笑顔は自信に裏打ちされたものなのだろうが、相坂は安心できなかった。
確かに、杏奈は相坂に空を飛ばせてくれた。
それは、まるで童話の世界で起こる出来事のようであり、今、テレビに映っている血腥いニュースの映像とはまるで別世界のようだったから。
「で、でもねぇ…」
「大丈夫です、私を信じて下さい!私、絶対に和吉さんの事を守りますから!」
顔をぐっと近付けて、杏奈は言った。
彼女の瞳が、その唇が、相坂の視線を釘付けにする。
「和吉さん…?」
「あ、…ああ」
慌てて顔を離し、相坂は出てもいない汗を拭ったつもりで、ダラダラと汗を掻いている自分に気付いて情けなくなる。
「分かった、信じるよ…。ただ、さ、まだ、ね、僕が戦う気分じゃないんだ。それは、分かって欲しい…」
「分かりました。私は和吉さんが戦おうとするまで、いつまでも待っています」
恐らく、杏奈に悪気はないのだろうが、相坂には相当なプレッシャーになる返答だった…。