最強を思考する
あらかた敵を片付けた後、山田の方を見やると、すでに彼も九を殺してしまっていた。
どうだろうか、自分と彼、どちらが早かったのだろうか。
少し息を吐き、その面倒な思考を追いやる為に軽く頭を振る。
そして、一瞬で山田の前に到達する。
「山田氏、九を倒せたみたいですね?」
「ええ、ええ、お陰様で何とかと言った感じですがねぇ」
「そんなに苦労したようには見えませんけどね」
「そうですねぇ、何と言うか、拍子抜けしましたねぇ。呆気ないと言うか、…うん、最後に何となく目が合った気がしたのは、……まあ、気のせいでしょうねぇ」
それは、間違いなく気のせいだ。
自分を捨てる代償に強さを得るのだから余程の例外でもなければ、とそこまで考えて青岸を思い出す。
「いや、案外、本当に目が合ったのかもしれませんよ」
所詮、あの青岸でも出来た程度の事だ。
九にその片鱗が垣間見えたとしても、別段、おかしな事ではないだろう。
「まあ、答えはないのですから、感傷ですねぇ」
山田の笑顔はどこか寂しげだった。
「後悔してるんですか?」
「もっと上手く出来たかもしれない、そんな風には思いますよ。でもね、そうだったとしたら、今、自分が立っている場所も違っているわけで、それが必ずしも満足できるかと言えば、違う気もするんですよ」
「そうですか」
確かに、山田は感傷に浸っているようだ。
「襟櫛はこれからどうするんですか?」
その問い掛けはこれからの自分を見透かしているようで、山田が単純な感傷に浸っているだけの愚かな存在ではないという事を示しているようだった。
「そうですね。カズト氏には悪いけど、俺はそろそろ自由にさせてもらおうと思うんですよ」
かつて、あの『最強』が目指していたのは、こういう事なのだろうという確信が出来ていた。
己が道を貫く為ならば、所属した組織も、個人的な繋がりも、全て振り払って突き進む。
「お別れですねぇ、襟櫛」
答えずに頷き、軽く手を振る。
山田がいてくれて、本当に良かった。
カズトや谷川や子供達の事、それを彼に託していける。
「またいつか、どこかで」
それにも答えない。
『最強』がそうしたように、自分もそうするのだ。
駆け出した先にあるのがどんな戦いか、それだけに心踊らせれば良いのだ…。