因縁
「2つ目の特異性とは、ああも簡単に使ってしまえる代物ですかねぇ」
「弱い奴は自分が弱いという事実に納得できず、平気で禁忌に手を染めるって事じゃないですか?」
襟櫛の言う事には一理ある。
ただ、それだけで、誰もが自分を捨てられてしまうものだろうか。
「しかし、まあ、地獄絵図ですね」
地獄絵図と表現しながら、襟櫛は今にも飛び出しそうだった。
そう、彼はあの場に突っ込んで行き、戦いに身を投じたいのだ。
とても、自分はそんな心境にならないが。
でも、そんな自分でも、あそこに行くべき理由があった。
「襟櫛、九は譲ってもらえませんかねぇ?」
「あの中だったら、九が圧倒的に飛び抜けてるんですけどね。まあ、因縁ってやつは理解してますし、今回は譲りますよ。ただし、負けそうになったとしても、手は貸さないですよ?」
「ええ、ええ、手を貸されなんてしたら、一生恨みますからねぇ」
襟櫛が少し笑う。
そして、戦装束に二振りの日本刀という戦闘態勢に移行した。
「どっちが先に終わらせるか、競争しませんか?」
「それは面白いですねぇ」
提案に乗ってやるのは、譲ってくれた感謝からだ。
正直、襟櫛と違って、自分にはそんな余裕はない。
「じゃあ、行きますね」
襟櫛の姿が消える。
彼が羨ましい。
あんな風に、完全無欠の戦闘特化であれば、自分はどんなに自信を持って九に挑めただろうか。
まあ、無い物ねだりをしていても仕方がない。
自分には自分にだけ許された特異性がある。
そう、『道式論』は世界の全てを覆す…。