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刹那の絆  作者: シャーパー
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逃がすわけにはいかない

自分でも驚くほど、冷静でいられた。


まず、隣で話している唯の姿が消えた。


そして、周囲で騒いでいた子供達の姿も消えた。


さらに、周囲が灰色では無くなっていた。


ここまで認識した時、消えたのはみんなではなく、自分なのだと理解できた。


そう、何かをされたのが自分だという事を理解して、ホッとして、冷静になれた。


最悪、自分が殺されたとしても、他のみんなは、唯は、カズトさんが守ってくれるはずだ。


今、自分に出来る事は、敵の何かを削るという事だけだ。


「カミム、貴方、どういうつもりなの?敵が迫っているのに、いきなり、こんな子供を…」


カミム。


その名前は、知っていた。


現状、世界で起こっている危機の元凶。


僕達が倒すべき敵。


「カミム…、お前がカミムか!」


性別も年齢も分からない、が、敵である事は分かっていた。


「カミム、どういう事?」


「さてはて、どういう事とはどういう了見にて?」


「この子は召喚士じゃないわ。私の頭に、顔が浮かんでいないもの。それなのにどうして、私が召喚して他の召喚士しか知らないはずの貴方を知っているのよ!」


「これは、うーん、失策失敬失敗失笑、アハハハッ!」


何を争っているのだろうか。


ただ、仲間割れは歓迎するべき事だ。


「疑惑をあやふやに誤魔化すには、新たなゲストに贄となってもらう」


カミムが指を鳴らすと、巨大な斧を持った少女が唐突に出現した。


「おっと君宮美雨に見つかったぁ、どうするどうする困った困った、アハハハッ!」


「カミム、久し振りね。そう、そっちの娘がアンタの召喚した存在ってわけ」


「違うわ、勘違いしないで。私がカミムを召喚したのよ。召喚王になる為に!」


「不細工な操作をしてるのね、カミム。その娘をそういう風に操って、アンタはこの世界をどうしたいの?」


「だから、私がカミムを召喚したって、そう言ってるでしょ!」


「アタシはカミムに聞いてるんだ、黙ってろ!」


少女は叫び、跳躍し、巨大な斧を叩き付けた。


それに対し、斧を掴んで受け止めた姿は、常軌を逸していた。


「誰が、誰を召喚したって?召喚士はこの世界の一般人から選ばれるのよ。アタシの斧を軽々と掴む化物が、一般人と主張するつもり?」


「私は…、だって、そんな…、私が、召喚王に…」


「アンタを殺してから、カミムには問うわ。名乗れ!」


「…嘉島那岐」


「嘉島那岐、その名は我が敵なる名、敵の名を刻みし我が身は、天に昇りて竜を顕現す!」


少女は振り下ろしていた斧から手を離し、先程とは違う跳躍を、まるで、その言葉通りに天へと昇っていくかのように浮かび上がっていく。


やがて、その姿が視認できなくなった時、唐突に落ちた。


全身を竜の鱗みたいなのに包み、明らかに異様な姿だった。


「愉快痛快な現場なれど、拙者は新たな舞台を演出せねばならん。では皆々様方、お達者で壮健たらん事を伏して祈り参らせ候」


「どこに行くっていうか、逃げられると思うな!」


嘉島那岐が斧をクルッと持ち替え、まるで自分の武器であるかのように扱い、カミムの首を飛ばそうと薙ぐ。


それをカミムは軽く片手で止め、笑う。


いや、嗤う。


今まで表情が掴めずにいたが、今は明らかに見下していた。


「逃げるとは、どういう意味だ、嘉島那岐?何故、弱者から逃げる必要などがある?」


力を込めて震える斧は、だが、それ以上、ピクリとも進もうとしない。


斧を軽々と振るった嘉島那岐の力をも圧倒して、カミムは強いのだ。


「逃げるのではない。新たな混乱を生みに行くのだ。理解できたか、嘉島那岐?」


「世界を混乱に導くなんて、私が許さないわよ、カミム!」


「許さなくてどうする、嘉島那岐?下らん問答を繰り返しても無意味だな、そろそろ行こうか」


「アタシもアンタに用があるのよ、カミム。逃さないって意味では、嘉島那岐と同意見ね」


竜の鱗に身を包んだ君宮美雨が、介入する。


「で?」


「まず、死ね!」


側頭部に放たれようとした蹴撃を、余っていた片手で軽々と受け止め、カミムは未だに余裕綽々だった。


「どちらも、この世界に召喚してやったんだ。召喚してやった側が、召喚してもらった雑魚達に劣るとでも思ったか?」


嘉島那岐が、君宮美雨が、意図したわけではないだろうが、同時に僕を見る。


分かっている、勿論、分かっている。


僕だって、みんなの為に、唯の為に、こいつを逃がすわけにはいかない。


僕は切り札だ、奥の手だ。


何かがあったとしても、いつもは茜が戦い、唯がそれをフォローして、僕は子供達と一緒にいる。


僕は戦ってはいけない。


それが、カズトさんとの約束だ。


でも、今、全ての元凶が逃げようとしている今、ここで戦わなかったら、何の為の切り札だ、奥の手だって言うんだ。


「カミム、お前は言ったな?」


「何だ、孺子?観客は黙って、舞台の行く末を眺めていろ」


「召喚された奴は、召喚した奴には勝てないって、そう言ったな?」


「で?」


「お前に召喚なんかされてない僕は、お前に勝てる!」


「特異性か、孺子?見せてみろ、予測できない攻撃にも対処してやろう」


僕は、最強だ…。

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