突然の凶事
「茜、カズトさんにちゃんと伝えられたかなぁ」
「うーん、どうだろうね。伝えられていると良いけどね」
健一の返事はいつも曖昧だ。
「それにしても、唯は構わなかったの?」
「何が?」
「えっ、唯もカズトさんの事が好きだったんじゃないかなって」
たまに、健一は核心を突こうとする。
ただ、大抵、それは的外れなのだ。
「違うよ。カズトさんには感謝してる。あの人がいなかったら、今、自分達はこうしていられなかったんだから。でも、恋はしてない。そういうんじゃないよ」
「そう、なの…」
曖昧に、濁そうとしているのが分かる。
「健一だって、カズトさんには感謝してるでしょ?」
「当たり前だよ。僕達は…」
変なところで言葉が途切れる。
意味が分からず、健一の方を見やると、彼の姿は何処にもなかった。
「えっ、健一…?」
幼い子供達が騒いでいる。
彼らを宥めつつ、話を整理してみると、どうやら、不意に健一の姿が消えてしまったらしい。
こういう時、どうしたら良いのか、全く分からない。
困った時はいつも、誰かが解決してくれた。
でも、今は自分がこの場をまとめる人間なのだ。
「カズトさんに相談しようよ」
「カズトさんなら、健一お兄ちゃんを助けてくれるよ」
「早く、カズトさんに話に行こっ!」
「カズトさんは?」
「カズトさんはどこなの?」
子供達が次々とカズトさんの名前を口にするたび、自分もそれ以外に手はないと思い始めていた。
その時、ふと思った。
茜だったら、どうするだろうか。
いつも、ここには茜がいて、自分と健一がそれをフォローしていた。
彼女なら、今、カズトさんに助けを求めるだろうか。
分からない、分からないけど。
自分は健一を助けたい。
そして、それが出来るのはきっと、カズトさんだけだ…。