答えの分からない提案
少しだけ出した灰色から様子を窺っていたので、だいたいの事情は分かっていた。
そして、カズトの方もそれはお見通しだったようで、こちらに説明などはしなかった。
どうやら、様子を窺っていたのは自分だけではなく、時雨や郁人、茜、唯、健一といった面々も、それを行っていたようだったのには驚かされた。
彼らは今まで、自分やカズトに言われた事を疑問なく実行するだけで、特にやっている事の意味などを気にしている素振りは無かった。
ただ、それが気になり始めたというのは、まあ、確かに成長なのだろうが、他にも意味はあるのだろうか。
「全ての元凶と思われる存在を、まずは叩く。組織の奴ら、いや、特異性を持つ世界中の全てかもしれないが、勿論、俺達も含めてだ、道具として使ってやがる気違いだ。こいつを倒さないと、何も始まらない」
「カズト氏、俺は当然、最前線に出てそいつを殺しますよ」
「うん、頼むよ。山田氏も、襟櫛と一緒に行って欲しいんだ」
「ええ、ええ、頼まれましたよ。全ての元凶ですねぇ、一度、この目で見ておきたいと思っていましたからねぇ」
「谷川もいつものように何人か連れて、2人のバックアップを頼む」
「了解だ」
「時雨と郁人は俺の補佐、茜と唯と健一は戦わない子供達の面倒を見てくれ。じゃあ、行くとするか」
カズトは襟櫛と山田に、カミムとやらの特徴を伝え始めたが、俺は自分の服を引っ張る存在に気付いて振り向いた。
唯と健一がいた。
「どうした、お前達?」
「茜の事、カズトさんに言ってくれた?」
そういえば、そうだった。
「悪い、忘れていた。だが、今回でなくては駄目なのか?もっと、簡単な、そう、お遊びのような時にやった方が、俺は良いと思うのだが」
「駄目だよ。今回のような時じゃないと、絶対に駄目なの」
それだけの気持ちが、唯にはあるという事なのか。
まあ、簡単な時に重要な役目を果たしても、それがカズトの印象に残るかは分からないという事なのだろう。
「分かった、伝えてこよう」
カズトの元に行くと、彼はどうやら、2人にカミムの特徴を上手く伝えられなかったらしく、表現方法を探して途方に暮れているようだった。
「話がある。構わないか?」
「えっ?あ、ああ、何だ?」
「今回は貴様の近くに茜も置いてくれ」
言われた事の真意が理解できなかったのか、カズトは首を傾げる。
ただ、問い返されたとしても、俺自身、答えが分からないわけだが。
「茜が俺の近くにいたとして、何が…?」
「とりあえず、戦わない子供達の面倒は、唯と健一に責任を持って見させるから、茜の件は頼んだぞ」
「谷川の事だから、当然、何らかの意図があるんだろうが、…クソッ、珍しく分からない事を仕掛けやがって、考える事が増えちまった」
そんな悪態を吐きながらも、こちらに答えを求めないところがカズトの妙なプライドなのだ。
まあ、求められたとしても、何の用意もしていないのだが。
「とにかく、今回はこれが最善の一手だ。いざという時は、茜の事も考えてくれ」
カズトは頷きつつ、時雨と郁人を呼んだ。
果たして、彼らは答えを知っているのだろうか…。