世界最速の誇り
パッと見た限り、少し奇妙ではあるが、異質とまでは言えない集団だった。
ただ、直感がざわついたというだけだ。
しかし、それがそうだとすれば、俺は彼らを見過ごせなかった。
「おい、お前達って…」
そこまで言っただけで、彼らの警戒心は最高潮まで跳ね上がった。
黒装束の偉丈夫が2人の少女を隠すように立ちはだかり、最も幼い少女が常人を遥かに凌ぐ速度で突っ込んで来た。
だが、速度は俺の専売特許であり、それは反応という意味合いですらも同義だった。
戦装束に二振りの日本刀、その両方を抜き放ち、突っ込んで来た少女と距離を保つ。
「お前達、何者だ?」
「敵か?」
俺の問い掛けを無視し、偉丈夫は自分の後ろに隠した少女達に問う。
ただ、答えは否定でもなく、肯定でもない。
「分かりません。頭には何も浮かんでいません」
「わたしも同じです…」
「どうだって構わないわ。妾の初撃を避けた、それだけで雑魚ではない。雑魚ではない他者は、敵であると考えるべきじゃなくて?」
「1人で殺せるか?」
「誰に聞いているのかしらね。妾に聞いたなら、愚問ね」
正直、世界最速の自負はある。
世界最強も名乗りたいところではあったが、前回のような執着をしているようでは、そちらはおぼつかない。
まあ、それは置いておくとしてだ、相手も速度特化である以上、自分が負ける可能性は皆無だ。
偉丈夫が守る少女達のさらに後方、そこに灰色が出現する。
結構な速度で駆け抜けて来たはずだが、もう追い付かれてしまったのか。
郁人の『加速』も侮れない。
「襟櫛、彼らと話がしたいんだが」
「それは、殺すなって事?」
「いや、眼前の少女は殺して構わないさ。どうせ、生き残らせたところで、会話が成立するとは思えないからな。こっちの黒装束は、…そうだな、山田氏、頼めるか?」
カズトに続いて、山田が姿を見せた。
谷川も姿を見せようとしたが、それをカズトが軽く手で制する。
「谷川は、仮に俺達の誰かが殺られたら、子供達を指揮して回収してくれ」
返事はなかったが、谷川は姿を見せず、灰色は消えたので、了承したというところなのだろうか。
それにしても、カズトも慎重なものだと思う。
個々の実力も然ることながら、数で押し切っても構わないのに。
まあ、それをやろうとしたら、俺が邪魔されたと騒ぐとでも考えられているのかもしれない。
自分でも絶対にやらないと確信が持てない以上、他人のカズトがそう考えるのも無理はないだろう。
そんな考え事していると、少女が再び突っ込んで来た。
それを軽く避けながら、俺は気持ちを切り替える。
「悪いな、待たせちまったみたいで」
「最近、妾の速度が鈍ったのかと、そんな錯覚をしてしまうわ」
「錯覚だよ。元々、俺とお前じゃ、速度に差があるだけだ」
「へぇ、愉快ね」
少女が鋭く研ぎ澄まされていくのが分かる。
速度は、もう何段階くらい上げられるのだろうか。
少し楽しみにしながら、俺は二度と不覚を取らないようにと…。