強者弱者
アストリットが、あのアストリットが、そう、あの彼女が、未だに相手を殺せていなかった。
いや、自分の友人を作ろうとしているのだから、殺す気は無かったのかもしれない。
そう、かもしれない、というだけだ。
もう、今は相手を殺すつもりだっただろう。
それくらい、彼女はキレていた。
いつでも余裕に溢れていて、誰が相手でも決して負けるなんて可能性は無さそうだった彼女が、今、確かに激戦を展開している。
唐突に、彼女が眼前に立っていた。
次の瞬間、凄まじい音が耳を打つ。
どうやら、敵が自分を狙って来たらしい。
アストリットが守ってくれたのだ。
「何処かに…」
「えっ?」
「何処かに身を隠すという程度の判断も出来ないのかしら、頭の回らない娘ね…。いや、下手に身を隠して守り切れずに封殺されたら、それこそか…」
独り言だった。
こちらの無能を呪う独り言だ。
「アストリット、やっぱり、わたしには友達なんて出来ない運命なのかも…」
すっかり、敵を殺したくなってしまっているアストリットの軛を解き放ってやるつもりの言葉だったが、彼女は何も答えず、振り向かずにいた。
「アストリット…?」
「そうだったわね…」
「えっ…?」
こちらを振り返った彼女の顔は、壮絶の一言に尽きた。
その口元を彩る艶やかな笑みも、顔全体の印象を僅かなりとも薄められずにいた。
「殺してはならなかったわ。あれは、友人とその下僕。そうね、そうだったわね、妾とした事が、フフッ、この世界に来て本当に良かったわ、楽しくて仕方ない」
「アストリット、友達はまた、次の機会でも…」
「黙りなさいな。妾を濁すなんて、愚行は…」
これ以上、余計な事を言ってしまえば、自分の死をも厭わずにわたしを殺すかもしれない。
だから、黙るしかなかった。
「そうよ、見守っておきなさいな」
再び、顔を背けたアストリットは今、どんな顔をしているのだろうか。
それはきっと、わたしには一度も見せた事がないような顔なのだろう、そんな気がした…。