流れを見ているだけ
運が悪かったかどうか、それは分からない。
何故なら、つい最近まで、比較する対象が無かったからだ。
ただ、雪雨と芳賀文雄の関係が普通だとするならば、自分はやっぱり、運が悪かったのだろうとは思う。
自分を召喚した真柴基夫は、芳賀が評した通り、豚畜生だった、鬼畜だった、どうしようもないクズだった。
召喚し、名乗らせる間も与えず、衣服を奪い、あらゆる行為でこの身を抉った。
しかし、それでも、何も感じられない自分も同時に存在していた。
元々、前の世界でも、自分の主人とは常にそういう人種だったからだ。
慣れているというよりも、当たり前すぎて何も感じない。
そして、今は解放されて幸せかというと、別段、そうでもない。
雪雨の援護といえば、聞こえは良いが、死地に赴くという事なのだ。
戦う事は嫌いではない。
そもそも、戦いが嫌いならば、カミムの提案などに応じたりはしないだろう。
しかし、あれは戦いなのだろうか。
視界に展開するのは、そう、異様だった。
強すぎる何かに対し、それぞれが別の目的で挑んでいる。
雪雨は芳賀の命令で、白装束の男は自分の召喚士を守る為だろうか、老人は戦わなくても良かったのに自ら望んで割って入ったように思う。
「雪雨、援護に来たよ」
「アァ?あ、えっ…、うん」
雪雨は彼らしくもなく、興奮しているようだった。
それでも、自分を認識すると同時に冷静さを取り戻したのは、自分と違って本当の作り物だからだろうか。
いや、そもそも、作り物が興奮するなんていうのがオカシイのだろうが。
「マスターが心配して…?」
雪雨は常にマスターと呼ぶ芳賀の事を意識していた。
だから、心配を掛ける事など、論外なのだろう。
「そうだよ。冷静に考えて、あれに勝てる?」
「勝てるかどうかじゃなく、勝つ」
「分かった、援護する」
芳賀が撤退しろと言ったのならば、雪雨は従っただろう。
しかし、そうでない以上、勝てるか勝てないか、そういう話ならば、勝つしかないのだろう。
そして、それが決断された以上、自分も命じられた通りに援護する。
自分も、そして、雪雨だって分かっているのだ。
あれに勝てるわけがないなんて、そんな当たり前の事…。