感情に似た何か
そこは、戦場と呼ぶ事さえ、憚られるように思えた。
自然と少し震え、その事に戸惑ってしまう。
作られた自分が何に怯え、震えてしまったのだろうか。
恐怖など、感じた事も無かったはずなのに。
「雪雨よ、狙いは分かったか?」
「はい、マスター」
意識して、その答えは平常と変わらないように出したつもりだった。
恐る恐る、マスターの顔を盗み見るが、彼は彼でこの場所に何かを感じてしまっているらしく、自分の変化にはまるで気付いた節もなかった。
それにホッとしながら、同時に痛かった。
まただ、痛いとは何だろうか。
痛いなんて、そんな事、知っているわけもないのに。
「…雪雨、奴らを、止めてやってくれ」
マスターの声が震えている。
彼の感情がどういう風に動き、そうなってしまっているのかはまるで分からない。
いや、嘘だ、少しなら分かる気がする。
違う、分かるわけがない。
作られた自分なんかに、マスターの心が分かるわけなんてないのに。
「雪雨…?」
マスターの声が訝しげに、自分を突き刺す。
自分は何も感じない、何も感じられない作られた存在だ。
それが、マスターを不安にさせてどうする。
「行きます」
「あ、ああ、頼むよ…」
2人の、いや、2人だった何かの停止、それが課された任務だった。
一度、上空高く飛翔する。
目標は2つ、交互に見やって狙いを定める。
まずは、屋外の方から叩く。
周囲で戦っている者達も、上手く利用できるかもしれない。
脳天を貫かんばかりの勢いで降下する。
接触の瞬間、光が瞬く。
「えっ?」
側頭部に掌底を叩き付けられ、無残に吹っ飛ぶ自分を認識できたのは、吹っ飛んだ後の転がった先でだった。
機能低下、一撃でまさか、これ程とは。
そして、追撃が行われなかった事に安堵している自分に苛立つ。
苛立ちなんて、作られた自分にあるわけがないのに、確かに苛立っていた。
「アァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!」
何だ、この無様な叫び声は。
誰が出している、何処から聞こえる。
分かっている、分かっていた。
最高速度での突撃を敢行する。
止める。
違う、壊すのだ…。