組織の自分
雪雨に生じた迷いの正体が、自分には理解できていた。
彼は完璧な機械であろうとしながら、優しさを有しているのだ。
その優しさが、召喚士から虐げられているように見えた少女を傷付ける事に対する躊躇を生み出してしまったのだろう。
だが、それでも、雪雨は少女を倒し、目的を果たした。
だからこそ、それで良いと思うのだ。
雪雨の優しさは弱点となる十二分な要素ではあるが、その優しさが自分に対する献身性となっているのも、また事実だ。
それならば、弱点を内包しようとも、こちらが上手く導いてやれば、それで良いのだ。
「雪雨、良い働きじゃったよ」
「マスター、ボクは…」
「雪雨、お前さんは考えるな。考えるのはワシの役目じゃ、そうは思わんかのぅ?」
「はい、マスター、その通りです」
雪雨の返答には、淀みがない。
こちらに委ねるというのは、彼にとって自然なのだろう。
常に自分では判断せず、誰かの指示に従って生きてきた彼にとっては、それが日常なのだ。
そういえば、と思う。
彼は何故、この世界に来る事を選んだのだろうか。
自分の判断がない彼に、それでも、この世界に来るという判断をさせたのは、何だったのだろうか。
興味はあったが、それを質問するのはやめておく。
それよりも、重要な事が視界にはあったからだ。
「九、古戸野…」
かつての同僚を、その名を呟く。
彼らは彼らであって、すでに彼らではない。
そして、召喚王となれたとしても、すでに組織はなくなってしまったのだと理解もしていた。
「雪雨よ、少しばかり無理をさせるが、構わんかのぅ?」
「はい、マスター」
それは、冷静な判断とはとても言えない。
愚考だ。
ただ、自分の視界にある絶望を見て、無視して笑って見過ごせるほど、自分は人間が出来ていない。
組織はなくとも、彼らの終幕は自分が閉じてやらなければならないだろう。
そして、全ての召喚士達に、自分の存在を刻んでやるのだ…。