想像力の化物
リョウの心が復讐に支配されているわけではないと、分かってはいた。
ただ、それは危うい均衡になっていて、少し間違った方に刺激されるだけで一気に傾いてしまうものでもあった。
まあ、勿論、俺としては傾かせるつもりはなかったが、それにしても、それにしたところでか、相坂和吉が殺されてしまうのは、俺にとっても予想外だった。
正直、カミムが意図しているのかどうか分からないが、召喚士が互いに近距離に位置しすぎているのではないだろうか。
短期間に遭遇する、或いは発見する率が高過ぎるのだ。
「おじいちゃん…、おじいちゃん!」
リョウが呼んでいる、思考の海に沈み過ぎていたせいか、呼び掛けに気付かなかったようだ。
「どうした、リョウ?」
「あれ…、何?」
リョウが指差した先に、何かがあった。
それは、何かとしか分からない何かだった。
やがて、理解できた。
「人…か?」
恐らくは人だった何かが、猛威を振るっていた。
その相手をさせられているのは、白髪と白装束と白い肌をした長身痩躯の男だ。
長刀を縦横無尽に振り回し、果敢に応戦しているが、何かとは歴然とした差がある。
「リョウ、離れるぞ。アレは、最悪だ」
「おじいちゃんでも勝てないの?」
「ああ、まるで無理だ。格が違うと言うよりは、世界が違うよ、あんなのとは戦いにすらならない」
そうだ、長刀の方も相手をさせられているというだけで、戦えているわけではない。
「糸雪、退けない?」
長刀の召喚士らしき男が発した質問に、答えはない。
答える余裕など、あるわけがないのだ。
召喚士を守るだけで精一杯で、他に出来る事なんてない。
あの召喚士を屈服させるのは今なら簡単なのだろうが、あそこに近寄るリスクを負ってまでやるような事でもない。
「リョウ…」
「アレが、お姉さんを殺した可能性はない?」
傾きかけている、最悪の方に。
「分からない。だが、戦えないぞ、アレは駄目だ」
分かってくれ、不可能も無理も、あるのだ。
「可能性がある以上、見過ごせないよ」
傾いた。
そうである以上、最善を尽くそう。
「ここで、俺達は死ぬ事になるぞ?」
そう言いながら、俺はアレを見ていた、あの何かを見続けていた。
「おじいちゃんなら、勝てるでしょ?」
「まあ、勝機がまるで無いとは、言わんようにしたいな」
経験が俺を強くしていく。
見ているだけだが、想像力は養われていく。
俺に、勝てない存在など、ありえない…。