逃せない気持ち
それは、突然の出来事だった。
今まで普通に喋っていた杏奈が、急に黙り込んで、そして、自分と一緒に落下したのだ。
呼び掛けても、叫んでも、まるで、反応がなかった。
そして、地面に激突する前に、バレンに助けられると同時、自分は起き上がったのだが、杏奈は身動きの1つすらもしなかった。
「おじいちゃん、お姉さんが急に!」
「絶命しておるよ」
「えっ…?」
意味が分からなかった。
杏奈と相坂を従えた自分が生きているのに、どうして、彼女が死んでしまうのだろうか。
「つまり、リョウではなく、相坂和吉が何者かに殺られたというわけじゃな」
「僕のせいだ…」
あの時、相坂が一緒に来たがっていたのに、置いていこうと提案したのは自分だった。
その結果、取り残された相坂は、本来、自分を守ってくれるはずの杏奈に守られる事もなく、他の召喚士に殺されてしまった。
「リョウのせいではないよ。これが、2人の運命だったというだけに過ぎん」
「でも…!」
こういう時、何を言っても無駄な時、それでも言わずにいられない時、自分が本当に子供なんだと自覚して恥ずかしくなってしまう。
でも、本当に子供なのだから、仕方がない。
「相手をしてやりたいのは山々じゃがな、今はそういうわけにもいかんよ」
さっきまで、自分や杏奈、そして、バレンを狙っていた少女達が逃げ出し始めている。
いや、逃げているのではなく、集まっているのか。
「おじいちゃん、どうするの?」
「どうするか…?どうしたいかは、リョウが決めるんじゃ。俺はリョウの決定に従う」
僕がどうしたいか。
そんなの、決まってる。
杏奈を殺したのが、そう、彼女が死ぬ原因を作ったのが少女達とその召喚士であるかもしれない以上、見逃すなんて出来るはずもない。
「行こう、おじいちゃん。逃げている相手を見過ごすほど、僕は大人になんてなれない!」
「良い決断じゃ」
その反応に気持ちを強くする。
そして、僕は…。