召喚王という妥協点
相坂和吉、初めて遭遇した召喚士が名乗ったのは、いかにも凡庸そうな名前だった。
竜胆蓮などという、いかにも凡庸じゃなさそうな名前を持った上で、本当に凡庸と程遠い自分とは、まるで正反対に位置する存在だった。
召喚した糸雪も、多分、召喚できる中では最強クラスだっただろう。
召喚王とやらも志向さえすれば、簡単になれるはずだった。
ただ、自分は召喚王とやらに対して、欠片の興味すらも抱けなかった。
とりあえず、結果的に召喚王とやらになってしまう事には納得する。
それが、自分にとってのスタート地点だった。
そう、全ての召喚士を制圧し、自分の実力を示せた暁に、その証明としての召喚王は受け入れてやろうという意味だ。
それで、今、眼前にいるのが、その最初の召喚士、記念すべき第一歩目の制圧すべき敵だった。
「それが、こんなにも弱く、脆く、鈍いとは」
肩を竦めると、それにすらも怯えてこちらを覗き見てくる。
「で、召喚した存在は守るべき主人を放置して、どこで遊んでるの?」
「俺は、他の召喚士に負けて、今は従ってるだけだから、杏奈はそいつと行動してるんだよ…」
すでに、行動している召喚士は多いだろう。
テレビで流れるニュースを見ていても、それはすぐに判断できる。
「敗北者ね。糸雪、すでに負けている存在には意味が無い。行こうか」
「み、見逃してくれるのか…?」
相坂を一瞥し、思う。
全ての召喚士を制圧しようとしている自分が、敗北者であるとしても召喚士を見逃すはずがない。
剛刃一閃。
相坂の首が飛び、だが、血は自分の身も、そして、糸雪の身も汚さない。
頭の中で、100点が加算された事を理解する。
「じゃあ、彼を従えていた召喚士を殺しに行こうか。次は、戦いくらいは演じられる事を祈ろう」
「そうですね。私も、一般人や召喚士を斬るだけでは、この世界に来た意味が無い」
「まあ、一度も戦わずに召喚王って道はないよ。現実に、これから向かう先では、戦いの真っ最中なわけだからね」
糸雪が少し笑ったような気がした。
「嬉しそうだね?」
「戦場に身を置く。それ以上の楽しみは、まだ、味わった事が無いですから」
少し口が軽くなっているようだ。
まあ、消極的よりも積極的な方が良いわけだし、基本的には吉兆なのだろうと思われた…。