菜々の迷い
絶望。
テレビの中に、その言葉が姿形となって映し出されていた。
思わず、近くに座っていた仄香の腕に抱き付いたが、彼女も呆然としてテレビを見つめていて、震えが伝わってくる。
「これは、放置していたら、この世界を殺すだろうな」
桐島の声が、その内容よりも響きにドキッとする。
恐る恐る、彼の顔を覗き見ると、視線が合ってしまって慌てて逸らしたが、ドキドキは激しくなる。
「決めるのはお前だ、そうだろう?」
みんながみんな、わたしを見ている。
そう、わたしが決めなければならない。
どうするのか、見過ごすのか、動くのか。
「わたしは…」
わたしは、どうしたいのだろう。
世界が殺されてしまうとするなら、放置しておくなんて出来ない。
ただ、動いてしまったら最後、絶対に犠牲者が出てしまう。
世界を守る為に、誰かが死んでしまうなんて絶対に嫌だった。
「わたしは…」
分からない、答えなんて出せなかった。
「お嬢ちゃんが困っとるようじゃから、それぞれの意見を出し合うとするかの。まず、ワシじゃが、静観する方に1票じゃ。何も、ワシらだけが召喚士というわけでもあるまいて、他の召喚士が動いて葬ってしまう可能性も高いじゃろうし、無闇矢鱈に動けば良いというもんでもない」
いつも、榊には助けられている。
わたしが困ってしまっている時、彼は必ず、助け舟を出してくれるのだ。
そんな彼が動くのには反対だと言ったとして、では動かないと決めてしまうかといえば、そうではない。
彼は自分の操り人形になってしまうわたしなんて、いつか絶対に見捨ててしまうだろう。
助けてもらっても、頼りにしても、依存したら駄目だ。
「我は動くべきだと考える。この映像を、全ての召喚士が見る可能性があるだろうから、力を見せつけてやれば良い。それにより、戦わずに仲間へとする道も開けるだろう」
死骸地の王は、いっつも怖そうなのだ。
でも、わたしが誰かを従えないで、みんなと仲間になりたいと思っている事を決して否定したりはしない。
だから、彼がどんなに怖そうでも、わたしは彼を仲間だと思っている。
「私は榊さんと同じで、動かない方が良いと思います。無理に戦いを挑んで、犠牲者を出しても嫌ですから」
隣りに座っている仄香は、わたしよりも少し大人で、でも、わたしよりも少し子供っぽいところもあって、大好きだった。
仲間になった初めの頃は、小さな声で喋って、自分の意見を言うような事もなかったが、今は普通に話して、自分の意見も積極的に言うようになった。
そして、彼女の意見は比較的、わたしの意見と近い事が多いから、それが嬉しかった。
残りは2人だったが、桐島はともかく、いつも元気な夏菜がなかなか口を開こうとしないのは、何でなのだろうかと気になってしょうがなかった…。