殺される前に自分を殺す覚悟
山田でも、襟櫛でも、カズトでも、芳賀文雄でもなく、まさか、こんな姿形をした敵を殺さなければならないとは思わなかった。
思わなかったが、自分の力が頼られたのだ。
それに応えられないのならば、そもそも、組織に属している意味が無い。
「…星の煌き」
敵は多く、だから、その全ての頭に光弾を当てる。
まずは、古戸野と合流を果たす。
それまでは、この有象無象の群れを相手にしている暇はない。
「…星の輝き」
本来ならば、追い打ちを行う為の高速移動だったが、今は敵の中を駆け抜ける為に使う。
ただ、敵もそんなに温くは無いようだった。
光弾で上を向かされたままで、銃を正確にこちらへと向けて撃ってくる。
いや、正確に言えば、さっきまでこちらが居た位置へと向けて撃ってくる。
今、自分は高速で移動しているのだ。
それを捉える銃撃など、不可能だ。
そう思っていた。
そう思っていたのに、銃弾が頬を掠めた。
動きが予測されている。
古戸野の元へと向かい、真っ直ぐに進んでいるのだから、予測はし易いだろう。
ただ、その精度の高さと早さが、忌々しい。
頬を掠めた次は、唇を抉る。
このまま進むのは危険だ、遠回りを選択しよう。
そう考えた瞬間、どこからか吹き荒んだ風が敵を薙ぐ。
「何だ…?」
援護か、古戸野が迎えを寄越してくれた。
そう考えかけて、苦笑する。
こんな強き駒がいるならば、自分を呼ぶ必要などあるまい。
では、これは何だ。
周囲を確認するが、誰の仕業なのかは分からない。
分からないが、好機ではある。
道は開かれた。
だが、次の瞬間、右足に灼熱を感じ、無様に転倒してしまう。
撃たれた、だが、何処からだ。
周囲の敵は今も風が薙ぎ続けている。
いや、そうではない。
上空から凄まじい爆音が轟き、風がそれと同時に止んだ。
そして、敵の1人、年端もいかぬ少女がこちらへと近付いて来る。
その手には、無骨な拳銃が1丁。
「遠征部隊が帰還しました。私達は、この世界を理解し終えました。これで、私達はもう、誰にも負けません」
銃口がこちらに向けられる。
照準は頭にピタリと合わせられ、少女の白くて小さく綺麗な指が引き金へと掛かる。
それを見ていたのは、まるで死神の所作を見るように、あまりにも美しく、非現実的だったからだろうか。
「待ってくれ、古戸野君の元に向かわなければ…」
そう言いながら、相手が待つわけもない事を理解していた。
そして、そうだとしたら、今、動けなくなってしまっている自分が打てる手は唯一にして無二。
嗚呼、自分は殺意だけの化物と成り果ててしまうのか、嗚呼、それだけは本当に嫌だったのに…。