夢の出会い
その男、相坂和吉は、59年の人生で最大の困惑に陥っていた。
目の前にサイコロが2つ、どちらも10面体のサイコロだ。
「これを投げて運命が決まるって言われてもなぁ…」
それは、昨夜の事だった。
昨夜、眠りに落ちた瞬間、まあ、この眠りに落ちたというのが曲者なのだが、普段はそんな事を意識できないのに、昨夜だけは眠りに落ちた瞬間に、眠りに落ちたという事が理解できたのだ。
話を戻そう、眠りに落ちた瞬間、相坂は見知らぬ場所に立っていた。
その場所は何も無い真っ白な空間で、無音だった。
「やあやあ、おめでとうございます。貴方は、100人目の召喚士に選ばれました。コングラッチュレーション、アハハハッ!」
眼前、何も無い空間から、1人の男が出現した。
いや、男ではないのかもしれない。
よくよく観察してから、そう思った。
性別不詳、そんな感じだ。
声質も男っぽくもなく、かと言って女性的な響きではなく、中性的だった。
「おやおやおや、聞こえてますかぁ?」
「あ、ああ…、聞こえているが」
「あっはあ、良かったです。まっ、聞こえないなんて事、あるわきゃないんですけどねぇ!」
どういう意味だろうか。
まあ、夢なんて不可思議な代物ではあるが、これはとてつもなく不可思議だ。
「何せ、心に話しかけてるわけですからして、耳が聞こえなかったとしても関係ないですし、そもそも心が壊れてるってのは流石にランダムって言っても排除してますしねぇ。あぁ、いやいやいや、心が壊れてるって言っても、理解力っていう意味ですから、殺意とか憎悪とか、そういうのに尖ったのは選ばれる可能性もあるってわけでご安心を」
深々と一礼する。
しかし、まあ、何をご安心すれば良いのだろうか。
そういう危険人物は、ランダムが何かは知らないが、排除しておいて欲しかったものだ。
「ではではで、本題に参りましょうか?」
「本題…?」
すっかり、相手のペースに嵌まってしまっていて、これから何が起ころうとしているのか、欠片も見当が付かない事に溜息すらも出ない。
「はい、そうです、本題です。興味あるでしょ?どうして、自分がこんな意味の分からない夢を見て、そして、それを意味が分からないと認識できているか」
急に、口調が変わった。
今までの軽いノリが嘘であったかのように、その男、或いは女は、冷たい視線を向けてくる。
そういえば、さっきまでも口調は軽かったが、その視線は冷たかったような気がする。
「ここは、何なんだ…?」
「案内しましょう、貴方の世界を変える召喚士の集いに」
出来れば、遠慮しておきたかった。
相坂の人生は平凡そのもので、波乱や異変などとは関り合いが全く無く、そして、これからもそれで良いと思っていたのだ。
それなのに、今から人生最大にして、最悪の困惑を受ける羽目になるなんて、実はこの時、もうすでに少し予想できていたりした…。